第1話 カネのなる木
悪友のSは発明家だ。ばかばかしくてあまり役には立たないけど、なかなかすごいってものを、いままでにいくつも発明している。
そのSから電話がかかってきた。
「カネのなる木を発明したんだ。もぎとったら、三日ほどでまた次のカネがなる。三日ごとに収穫できるんだから、いくらでもカネを増やせる」
うそだろー……と思っていたら、Sは、「それ、おまえにやるよ」と言い出した。
「なんでくれるんだ?」
「挿し木で増やしてもうひと鉢つくったんだ。だから、ひと鉢やるよ」
それで、あまり期待せずにSの家に出かけ、鉢植えの盆栽みたいなのを一つもらってきた。
ピンクのつぼみがたくさんついていて、花が咲いたあと、翌日にはカネがなるんだそうだ。
夜にかわいい花が乱れ咲くと、おれはほんの少しだけ期待した。
おれはいまプー太郎の貧乏暮らしだ。いくらのカネがなるのか知らないが、花はざっと二十個ほど咲いている。仮に百円玉がなるとすれば、三日に二千円ずつだ。生活費には足りないが、それでも失業中の身にはありがたい。
十円玉や一円玉なら拍子抜けだが、それでもないよりはましだ。
期待しながら眠ったオレは、翌朝、カンカンというけたたましい鐘の音で目をさました。
時計をみるとまだ六時なので、眠い目をこすりながら音の出所を探ろうとすると、すぐにわかった。
カネのなる木に、教会などにある鐘をうんと小さくしたようなミニチュアサイズの鐘が実り、やかましい音を立てていたのである……。
第2話 万能複製機
オレは失業中で貧乏だ。で、発明家で親友のSにぼやいた。
「あーあ、せめて、一つのものを二つに複製できる機械でもあったらなあ」
「おう、そう思うか? ちょうど完成したところだ」
半信半疑でSの家をたずねると、オーブントースターぐらいの大きさの複製機と、機械で実験に複製したキーホルダーやらメモ帳やらを見せてくれた。
左綴じのメモ帳は右綴じになり、表紙の文字は左右逆。キーホルダーは左右対称のデザインなので現物通りだが、値札の文字は左右が逆転している。
「複製したのは左右が逆になっちまうんだが、左右対称のものとか、左右が逆になっても支障のないものなら、べつにかまわんだろ」
オレの貧乏生活を知っているSは、一週間の約束でその機械を貸してくれた。
そこで、オレは、その日の夕食を複製することにした。複製したのを明日また複製すれば、消費期限になるまで食費が浮く。
まず、家にあったカップ麺を複製してみようとしたのだが、どうせなら久しぶりにまともなものを食べようと思いなおし、スーパーに出かけた。ちょうど、輸入物のサーロインステーキ用の牛肉を安売りしていたので、奮発してそれを一つ買ってきた。
ビフテキなんて、もう何ヵ月も食べていない。でも、一つ買えば、消費期限までの四日間、毎日でもビフテキを食べられるし、冷凍室に入れておけばもっと保つ。
で、ビフテキの複製を三つつくり、四つのうち二つを冷凍室に入れ、一つを明日用に冷蔵庫に入れて、残りの一つをフライパンで焼いた。
だが、焼き上がって、いざ食べようとしたとき、恐ろしいことに気がついた。
複製品が左右逆転するのは、はたして全体の形だけなのか? たしか、ひところ大騒ぎになった狂牛病の原因って、タンパク質の何かがふつうと左右逆とか聞いたような気が……。
心配になってSに電話をすると、Sは「さあ?」と答えた。
「タンパク質の構造がどうなるかまで確かめてないから、わからないよ。だが、いわれてみれば、肉を複製すれば異常プリオンになってるかも……」
じょ、冗談じゃない。
オレはあわてて、焼き上がった牛肉がオリジナルか複製か確かめようとしたのだが……。四つのうち、どれが食べても安全なオリジナルなのか、もはやわからない。
オレは、泣く泣くおいしそうな匂いのビフテキも冷蔵庫に入れた三枚の生肉も捨てて、カップ麺の夕食をとったのだった……。