童話を元にしたごく短い話2編を1ページにまとめました。
マッチ売りの女の子は、天国でおばあさんと再会しました。
やさしかったおばあさん。五つのときにおかあさんを亡くして以来、育ててくれたおばあさん。
しかも、おばあさんだけでなく、おかあさんまでいるではありませんか。
おかあさんは幼いころに亡くなったので、顔も覚えていないのですが、それでも、おばあさんのそばにいる女の人がおかあさんだということは、すぐにわかりました。
女の子は大喜びです。
おばあさんもおかあさんも、女の子が受けた仕打ちに腹を立てていました。
「うちの人ったら、なんてひどい女と再婚したのかしら」
「まったくあの子はいつだって女を見る目がないんだから」
おばあさんの言葉に、おかあさんは険しい顔になりました。
「それ、どういう意味ですの? お姑さま」
「言葉通りの意味ですよ。まあ、あなたは二度目の妻よりはましでしたけど」
「それはどうも」
「わたしが生きていれば、あんな女に好きほうだいさせないのに」
「そうですわね。わたしもお姑さまにはずいぶんいじめられましたもの」
「おや、あなただって負けていなかったじゃないの」
女の子は目をぱちくりしました。
やさしかったおばあさん。よく覚えていないけど、やさしかったにちがいないと思っていたおかあさん。
それがどうして、お互いに対してこんなにきつい言い方をするのか?
(おばあさんがおかあさんをいじめたの? おかあさんも負けていずにいじめ返したの?
二人とも、ほんとうはやさしい人ではなかったの?)
知りたくなかったと思いながら、女の子は、二人の言い争いに茫然としていたのでした。
むかしむかし、ある国の王様が魔法使いと口喧嘩したとき、魔法で蛙にされてしまいました。
そのとき魔法使いが言いました。
「この呪いを解くには、美しい姫君の願いを聞いてやって、お礼に同じ皿の料理を食べたり、同じ寝床で寝たりして、花嫁になってほしいと申し出ることだ」
「なるほど、蛙の姿に惑わされないやさしい姫の愛情を得たとき、元の姿に戻れるというわけか?」
王様が訊ねると、魔法使いは首を横に振りました。
「いや、姫が自分の料理から料理を与えたり、寝室に入れたあと、怒りと気味悪さからそなたを壁に叩きつければ、元の姿に戻れるだろう。そのあと、その姫と結婚すれば、呪いは完全に解ける」
「結婚しなければどうなる?」
「また蛙に戻ってしまうだろう」
王様は考えました。
自分の呪いを解くことができるのは、守る気もない約束を安易に交わし、約束を破ったうえに、醜いからといって相手を壁に叩きつけるような姫君。そのくせ、毛嫌いしていた相手がじつは人間の王だとわかれば、手のひらを返して結婚しようという気になる姫君。いくら美しくても、そのような女性と結婚したいという気になるだろうか?
それに、問題は、自分の好みだけではない。
王妃となれば、王に万一のことがあったとき、王子がいなければ女王、王子がいれば王母として、権力を握る可能性もある。軽率で短気なうえに裏表の激しい女性がそのような地位については、この国のためになるまい。
そこで王様は、妻子をもつのはあきらめて、
弟を跡継ぎに指名し、生涯、蛙の姿のまま国を治めたのでした。