駅の地下通路

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 いつも高校への通学に利用している地下駅のホーム。そこで美咲は、いままで気に留めていなかった通路があるのに気がついた。
 とくにどこに通じているという表示はない。こんなところにこんな通路があったろうかと首をかしげたが、よくわからない。行きはもちろん、帰りもたいてい急いでいるし、往復とも友人といっしょのことが多い。自分が使わない地下通路など、気づかなくてもふしぎではない。
 今日は夏休み中の登校日で、たまたまひとりで帰るところ。時間も早く、とくに急ぐ用事もない。それで、いままで気に留めていなかった通路が目に入ったのだろう。
 あれはどこに続いているのだろう?
 好奇心に駆られた美咲は、その地下通路に入ってみた。
 通路の照明は薄暗く、途中で曲がっているようで先がわからない。そのため不気味で、長く感じたが、歩いた時間はたぶん二分ぐらいだろう。突き当りの角を曲がってすぐに、別のホームに出た。
 こんなところに乗り換え路線があっただろうかと首をひねったが、あったはずはない。通路でだれにも出会わなかったし、ホームにもだれもいない。と思ったら、よく見ると遠くに人がいる。性別はわからないが、髪が長くて、浴衣なのか白っぽい着物を着ている。
 美咲の背筋に寒気が走った。ぞくぞくする。なぜか怖い。電車が近づいてくる音がするが、到着前にここを離れなければならないような気がする。
 美咲はきびすを返して通路を駆け戻った。なぜか、行きは歩きで帰りは全速力で走っているのに、来た時よりも時間がかかっているように思えた。
 ようやく元のホームにたどり着くと、ほっとしたためか気が遠くなって、美咲は前のめりにばったり倒れた。

 気がつくと美咲は病院のベッドにいて、母と担任の先生がそばにおり、熱中症で倒れたのだと教えてくれた。
 退院後、美咲は何度か例の地下通路があったあたりに行ってみたが、そんな通路は見当たらない。
 あれは熱中症で倒れている間に見た悪夢だったのか?
 ふつうに考えればたんなる悪夢だろう。だが、あのときの恐怖を思い出すと、なんとなく違うような気がする。やはり、恐ろしいところに迷い込んでしまって、全速力で走って逃げきったところで倒れたのではないか?
 そう思ったが、あまりにも現実離れして突拍子もない気がする。
 倒れているあいだに悪夢を見たのか? 逃げ帰ったところで倒れたのか?  どちらなのか、美咲にもよくわからないのだった。

 

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