第1話 ある古代生物の逆襲
彼らは古い生きものだった。地球上を恐竜がのし歩いていた時代から、彼らの種は存在していた。
だが、新しく誕生した生きものたちに、彼らは押しやられていった。恐竜たちにとって地球が住みにくい星となったように、彼らにとっても、地球は繁殖しにくい星となっていったのだ。
とはいっても、彼らは恐竜ほど悲惨ではなかった。地球上には、彼らの生きやすい土地も残されていたし、生きるのに適さない土地でも、彼らを育てようとした者たちがいた。
そう、人間たちが彼らを保護し、本来なら生きられない土地に根づかせたのだ。
ただし、それは彼らのためではない。人間たちが自分たちのいいように利用するためだ。
彼らは、子供時代を過ぎ、おとなになったところで生を断たれてしまう。
せめて、その前に子孫を残さなければ。できるだけ多くの子孫を残せば、そのなかには、彼らに本来は適応できていない土地でも、生き延びられるものもいるだろう。人間たちに見つからない場所で年老いるまで生き延びられるものだっているだろう。
そう思って、杉たちは、かつての先祖たちよりずっと多くの花粉をばらまく。その大量の花粉の一部は、人間の鼻や目に吸い込まれてしまうのだが、人間たちがそれでくしゃみを連発したり、涙をぽろぽろこぼしたりしているのは、それはそれでけっこういい気味だと、杉たちは思うのだった……。
第2話 人間の逆襲
毎年、花粉症のシーズンには、杉たちは人間たちにささやかな復讐ができて、ちょっといい気分だった。
だが、彼らは忘れていた。人間たちはけっこう恐い生きものなのだ。
「もともとうちの国の大半は、杉の生育する土地じゃなかったんだから、もとの広葉樹林帯に戻してしまえばいい」
「いや、花粉を飛ばせない杉に品種改良してしまうという手もあるぞ」
花粉症のあまりのつらさにネを上げた人間たちが、そんな相談をしていることを、杉たちは知らない……。
第3話 塵の逆襲
毎年の花粉症のシーズンに起こる人間たちの大騒ぎは、「エアロゾル」と呼ばれている空中の塵たちにとって、おもしろくなかった。
彼らは、いつのまにか与えられた「エアロゾル」という呼び名が気に入っていた。「塵」とか「ホコリ」などと呼ばれるより、ずっと強そうでかっこいいではないか。
そう、彼らは強いのだ。彼らは人間たちに「ぜんそく」とかいう病気を起こさせることだってでき、ひところ人間たちは彼らをずいぶん恐れたものだ。
だが、彼らの大半は人間の文明の産物。そのため彼らの被害は必要悪として目をつぶることにしたのか、慣れっこになったのか、大気汚染対策とやらで彼らの数が最盛期ほど多くなくなったためか、最近では、人間はそんなに彼らを恐れなくなった。
彼らとしては、それはおもしろくなかった。毎年、人間たちが騒ぐ花粉症だって、杉だけではなく、彼らも一役買っているのだ。
それなのに、人間たちは彼らをあまり恐れず、杉の花粉ばかり恐れている。
恐れられるのこそが悪役の醍醐味。杉の花粉ごときに負けたりしてはかっこ悪いではないか。
「やはり、ここは、もっと目立つようにアピールしなくては」
「だが、人間をまっこうから攻撃するのはあまり得策ではないぞ。やつらが本気で対策に乗り出したら、仲間の数がまた減らされてしまうかもしれない」
エアロゾルたちは相談しあい、名案を思いついた。大きな道路沿いに、目立つように雲をつくることにしたのだ。
かくて、東京西郊の環八道路沿いには、ときたま、「環八雲」と呼ばれる雲が一直線に並んで浮かび、人間たちにミステリーと騒がれるようになったのである。
環八雲について。環八道路沿いに、こういう変な雲がみられることがあるそうです。わたしは車の運転をしないので、見たことがないんですけど。 |