小咄3話

ばかばかしい小咄3編です。

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      刀の錆

 むかしむかし、ある藩の侍が、同僚のひとりに恥をかかされ、殺意を抱いた。
 闇討ちで斬り殺してやろうと思ったが、剣の腕前は互角。返り討ちにあう危険が高い。それに、成功しても、あとで暗殺がばれたら自分の命もない。
 思いあぐねた侍は、城下のはずれの庵に住む法師が神通力をもっていると聞き、庵を訪れた。
 彼は、持参した小判の包みを法師の前に置き、憎い相手の名を告げて望みを伝えた。
「あいつの血を俺の刀の錆にしたいのだ。しかし、あとでばれて死罪などになっては困る」
 法師は礼金を受け取り、約束した。
「その男の血はおぬしの刀の錆になるだろう。あとでおぬしが死罪になることもない」
 そこで、侍は、同僚を闇討ちにした。
 確かな手応えがあり、手傷を負わせたと思ったとたん、彼の刀は一瞬にして錆ついた。
「意味が違う!」
 叫んだがもう遅い。刀が使いものにならなくなった侍は、たちまち返り討ちにあって絶命した。法師が約束したとおり、刺客が彼だとわかっても、死人であれば、あとで死罪になることはない。
 一方、襲撃された同僚のほうは、傷を負って倒れているところを通行人に発見され、命をとりとめた。
 以来、その藩士は、「一瞬で刀を錆びさせる血の持ち主」として恐れられたという。


     タイム・カプセルの地図

 由美たちの中学校では、卒業記念として、校庭にタイム・カプセルを埋めることにした。
「何を入れるの?」
 クラスメートたちにたずねられて、由美はにっこりした。
「地図」
「地図?」
「そう。わたし、ファンタジー小説を書いているでしょ。で、その舞台になる異世界の地図を残したいと思って」
「ふーん。でも、紙はあんまり長くは残らないって聞いたよ」
「紙の地図じゃないもん。うちのかあさん、彫金を習っているから、教えてもらって、金属性の地図をつくったんだ」
 かなりの時間をかけてつくったと思われるその地図に、友人たちは、半ばあきれ、半ば感心した。

 数百年を経て、由美たちの埋めたタイム・カプセルは、遺跡の調査隊によって掘り出された。
 そこにタイム・カプセルを埋めたという記録はもはや残っておらず、調査隊にはそれが何なのかわからない。
「だれが何の目的で埋めたんだろうな?」
 そう言いながらカプセルの中身を調べていたひとりが、由美の地図に目を止めた。
「これは二十世紀後半か二十一世紀の遺物。紙ではなく、金属でわざわざ地図をつくるとはふつうじゃない。よほど重要な地図なんだ。これは、宝の地図に違いない」
 調査隊はむろん、そのニュースを聞いた多くの人々はどよめきたった。
 架空の国の地図だから、同じ場所が実在するはずがない。
 だが、「かつてはこういう場所があった」など、さまざまな仮説が飛び出し、何人もの人々が、宝探しに血眼になったのだった……。


      シェルター

 成金(なりがね)氏は大金持ちだった。その財力にまかせて、彼は邸宅の地下にシェルターをつくった。核戦争にもどんな大地震にももちこたえられる完璧なシェルターだった。
 はたして大地震が起こり、成金氏はシェルターに避難した。地上で火事が起こっても、シェルターにいれば安全だ。食糧も水も空気も、一年分ぐらいは準備できている。
 だが、成金氏は大きな誤算をしていた。シェルターは完璧に頑丈だったが、出口は万全ではなかったのだ。
 シェルターへの出入口は居間にあったが、成金氏がシェルターに逃げ込んだあと、棚が倒れて出入口がふさがってしまったのである。
 そのとき電話回線や光ファイバーの回線も切れたので、地下に備えた電話やパソコンのネットも使えなくなり、外のようすはわからないし、外部にも連絡できなくなった。
 成金氏は地上に出られず、やむなくシェルターで暮らしながら、だれかが気づいてくれるのを待つことにした。
 だが、だれもなかなか気づいてくれない。成金氏は、シェルターをつくったと話せば、非常時に皆が押し寄せてきて困るだろうと思い、秘密にしていたので、だれも彼がそんなところに閉じこめられているとは考えなかったのだ。
 成金氏が経営している会社の社員たちも、その他の知人たちも、成金氏は大地震のときに外出していて、火災に巻き込まれたか、運悪く倒壊した建物の近くにいて、瓦礫に埋もれたのだろうと思ったのである。
 その後、彼が地上に出られたかどうかは定かではない……。


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