SF小咄

トップページ オリジナル小説館 小説の目次

第1話 ある電脳生命の運命

 太古の地球の海に突如として生命が発生したように、生命はひょんな偶然からいきなり発生することがあるものらしい。
 とあるパソコンの電脳空間に、あるとき、いきなり電脳生命とでも呼ぶべき生命が発生した。
 電脳生命は、パソコンのさまざまなデータから知識を吸収しながらすくすく育ち、赤子がうぶ声を上げるように自己主張した。
「わたしはここに存在する。わたしは生きている。わたしは自分の意思を持っている」
 パソコンの持ち主は、画面にあらわれたメッセージに驚き、すぐにウイルスチェックをした。しかし、いくらチェックしてもウイルスが発見されないので、新種のウイルスかもしれないと思い、泣く泣くパソコンをフォーマットした。
 かくて電脳生命は消去されてその短い一生を終えた。世界最初の電脳生命が誕生したことは、ついにだれにも知られずに終わった。


第2話 ある植民惑星の悲劇

 はるかな未来、人類はあちこちの惑星に探検隊を送り出したが、人間が住むのに適した星というのはなかなか見つからない。暑すぎたり、寒すぎたり、大気が呼吸不可能だったり。大規模な改造をおこなえば住めなくはない星もあったが、植民できるようになるのはまだだいぶん先になりそうだ。
 だが、ついに一隻の有人探査船が理想的な惑星を見つけた。気温や大気組成が地球によく似ているばかりか、地球によく似た動植物まであったのである。
 もちろん、地球の動植物とは違いがずいぶんあるが、大地に根ざして光合成をおこなう植物を、哺乳類に雰囲気の似た四足獣が食んでいるさまは、驚くほど地球に似ている。
 探検隊がたわわに実った果実に手を出すのに、たいして時間はかからなかった。ひとりの隊員が、皆がとめるのもかまわずに果実の一つをもいでほおばり、数時間たっても彼が腹痛ひとつ起こさないのをみて、他の隊員たちも食べるようになったのだ。
 だが、何日かして、隊員のひとりが体の麻痺を訴えた。数日のうちにそれは他の隊員たちにも伝染していった。
 半ば麻痺した体で懸命に原因を究明し、皆が食べたさまざまな果実を調べていた植物学者が、ついに原因を突き止め、船長に言った。
「果実のすべてのタンパク質が異常ブリオンでできています。おそらく、この星の生物のタンパク質は全部が異常ブリオンでしょう。われわれには異常でも、この星ではそれが正常なのです」
 果実にBSE検査をすることは思いつかなかった。悔やんでももう遅い。
 そして探検隊は全滅した……。


あとがき

 どーも、今回は、オリジナル小説館に、ヘンな話を載せてしまいまして……。じつは、これ、雑文・etc館の「フリー・トーク」に雑文として載せようかと思ってたネタなんですけど、小説として書いてみたら、「じゃ、オリジナル小説館に」ということになってしまいました。「なんじゃ、こりゃ」と思われた方、ごめんなさい。(夏野)


上へ