朱美には予知能力があった。未来のことが何でもわかるというわけではないが、未来のできことを夢に見たり、ふと頭に浮かんで、それが現実になる……という体験を何度かしていた。
そんなあるとき、電車の吊り革につかまってぼうっとしている朱美の頭に、次のコミケの光景が浮かんだ。次のコミケだとわかったのは、自分が手にしているコミケカタログの表紙の数字からである。
自分が歩いている通路の両側に並ぶのは、これから自分が申し込もうと思っているジャンル。そこを、朱美は、一般参加者として歩いている。
はっとわれにかえって、朱美は落胆した。今のはただの白昼夢ではない。未来の光景だということはわかっている。
「申し込んでも落ちるんだ」
落ちるとわかれば、短冊を点線に沿ってていねいに切り取ったり、サークルカットを描いたりするのはばかばかしい。
せっかく千円も出して買った申込書だが、朱美はコミケに申し込むのをやめた。
半年後、朱美はコミケに一般参加した。
通路を歩きながら、朱美はふと思った。自分がこうして一般参加することになったのは、あの予知をして、それを信じたからではなかろうか、と。もしも予知を信じずに、ちゃんと申し込み書を送っていれば、当選していたかもしれないのではないか、と。
今となっては、それはわからないのだった……。