まなちゃんのいちばんの友だちは、ネコのシロです。まなちゃんは小学校の二年生ですけど、おとうさんの転勤でひっこして、いまの学校に転校してきたばかりなので、まだ、友だちがいないのです。
なのに、そのシロがいなくなってしまいました。遊びに出たまま、ごはんの時間になっても、帰ってこないのです。
近所をあちこちさがしましたが、シロはどこにもいません。まなちゃんは、心配で心配でたまりません。
「シロはおよめさんをさがしにいったんじゃないかしら。どこかで、およめさんを見つけて、しあわせにくらしているんじゃないかな」
おかあさんはそういいましたけど、まなちゃんは、それでもシロが帰ってこないのはいやだと思いました。
シロがいなくなってずいぶんたったある日、まなちゃんはシロを見つけました。へいの上を白いネコが歩いていたのですが、それがシロだったのです。
「シロ」
名前をよぶと、シロはうれしそうに「ニャア」と鳴いて、へいからまなちゃんの前にとびおりました。
でも、まなちゃんがだきあげようとすると、するりとまなちゃんの手をすりぬけ、とことこ歩いていきます。
まなちゃんは、あわててシロのあとを追いかけました。シロがはいっていったのは一軒の家の庭で、ミケネコと子ネコたちがシロをむかえます。
「えっ? シロのおよめさんと子どもたち?」
まなちゃんがおどろいていると、「どなた?」と声がして、女の人がでてきました。
女の人はまなちゃんを見てたずねます。
「まあ、ゆみこのお友だち?」
まなちゃんはくびを横にふって、シロをゆびさしました。
「その子の飼い主です。その子、シロっていうんですけど」
「あら、まあ。うちでもシロって呼んでたのよ。迷いこんできて、うちのミケのおむこさんになってたの。でも、あなたのネコちゃんならお返ししなくちゃね」
まなちゃんは迷いました。だって、シロをつれて帰ったら、子ネコたちのおとうさんがいなくなってしまうのですから。それに、シロも、およめさんや子どもたちと別れたくないでしょうから。
「つれて帰ったら、かわいそうかなあ」
まなちゃんがいうと、女の人はほほえみました。
「うーん、そうねえ。ちょっとかわいそうかもしれないけど……。でも、子ネコはすぐにおとなになるし、もしよかったら……」
女の人がいいかけたとき、「ミケ」とよぶ声がして、女の子がえんがわに出てきました。まなちゃんと同じぐらいの年で、昼間なのにパジャマをきています。
「むすめのゆみこよ」と、女の人が紹介しました。
「ゆみこ、シロの飼い主さんよ。お名前は、えーと」
女の人がまなちゃんを見たので、まなちゃんが答えました。
「まなです」
「シロをむかえにきたの?」と、ゆみこちゃんが泣きだしそうな声でいいました。
「子ネコたちがかわいそうだよ。おとうさんなのに」
「シロがここにいたいなら、おいて帰っていいけど……」
まなちゃんは、ちょっと迷ってからいいました。
「ときどき会いにきてもいいかな? シロはたったひとりの友だちだから」
「学校に友だちいないの? あなたも?」
それでまなちゃんは、ゆみこちゃんにも友だちがいないのだと気がつきました。
「わたしは転校してきたばかりだから」と、まなちゃんがいいました。
「わたしは病気ばかりしているから」と、ゆみこちゃんがいいました。
この日から、まなちゃんとゆみこちゃんは友だちになりました。まなちゃんはときどきゆみこちゃんの家に遊びにいきます。シロに会いにいくためもありますが、ゆみこちゃんと遊ぶためでもあります。
シロの子どもたちのうち一匹は、少し大きくなってから、まなちゃんの家にやってきました。それで、遊びにいくときにはその子ネコもつれていきます。
ゆみこちゃんは、まなちゃんと友だちになってから、ずいぶん元気になったようです。いっしょに学校にいける日もそう遠くないことでしょう。