あなたはうつむいて「はい」と答えました。
「わたしは、じつは陛下の大ファンだったのです。妃となって陛下の支えになれれば幸せですわ」
「支えなどいらぬ。わたしはそれほど弱くはない」
陛下はちょっとむっとした顔をされましたが、すぐに表情をやわらげました。
「だが、その気丈さは悪くはない。男に頼りきりの女より、気丈な女のほうがわたしの好みだ。トラキアの王妃にもふさわしい」
そこで、あなたと陛下は熱いくちづけを交わし、その場で婚約いたしました。
十五年後、トラバント陛下はセリス公子の軍と戦って戦死をとげ、トラキア王国は瓦解しました。
あなたは王妃の地位を失いましたが、義理の子のアリオーン王子とアルテナ王子はあなたを実の母のように慕っていましたので、路頭に迷うことはありませんでした。あなたは尼僧院に身を寄せ、亡夫の冥福を祈り、ときおり義理の子どもたちの訪問をうけながら、余生をひっそりと送りました。(終わり)