あなたはチェイニーに頼みました。
「焦げ茶色の髪の人を紹介してください」
 ひょっとして、それはあのナバールではないかと思うと、期待でドキドキしています。
 チェイニーについていくと、一軒の宿屋軒酒場に入っていきます。
「住所不定のやつだからさ。いまはここに泊まってるんだ」
 これはますます、ナバールにちがいありません。
 はたして、店に入ってチェイニーが「おーい」と呼びかけたとき、薄暗い隅の席でうっそり顔をあげたのは、ぼさぼさの長い暗褐色の髪、なぜかユグドラル大陸のソードマスターの服に似た薄紫の上着……。薄暗いのとぼさぼさの前髪のために顔はよく見えませんが、近くまでいけば、ウワサの美貌を拝めることでしょう。
 わくわくしながらチェイニーについてその人のほうに近づいていくと、返事が返ってきます。
「チェイニーか。何の用だ?」
「何の用はないだろ、サムトー」
 あなたは思わずコケそうになります。やはりというか、話がうますぎたようです。
「あれっ、ナバールだと思った?」
 チェイニーがあなたをふり向いておもしろそうに言います。
「あいつに女性を紹介するような無意味なことはしないよ。やつが見合い結婚するなんて、想像もできないもんな」
 おっしゃるとおりですね。はい。
「見合い結婚?」
 サムトーがふしぎそうにたずねます。
「あんたに彼女を紹介しようと思ってさ。焦げ茶色の髪の美青年がタイプだっていうんで、連れてきたんだ」
 サムトーはあなたを見て、あわててぱたぱたと髪をなおしかけ、それからハタと思いついたように、顔をななめに向けてうっそりと言いました。
「今宵のキルソードはよく切れる」
「ナバールのまねをしてもムダだよ。いま『サムトー』って呼んだじゃないか」
「あ、ああ、そうだな」
 サムトーはあなたを見上げてにっこりしました。
「じつは、店に入ってきたときから、かわいいコだなと思ってたんだ」
「どう、彼?」と、チェイニーがあなたに言います。
「住所不定の傭兵だし、あんまり甲斐性もないけど、けっこういい夫いい父親になれるやつだと思うぜ」
 あなたは内心でがっかりしていたのですが、よくサムトーを見てみると、なかなかきれいな顔をしています。それに、チェイニーが言ったとおり、本物のナバールなら、紹介してもらってつきあうなんて、まず無理でしょう。
 あなたはサムトーとつきあうことにし、まもなく結婚しました。サムトーは傭兵なので、しばらく出稼ぎにいき、稼いだお金をもって帰ってきて、しばらくいっしょに暮らす……という生活です。それはそれで、変化があって悪くはありません。
 やがてふたりのあいだには女の子が生まれました。たまにしか帰ってこない父親ですが、サムトーはけっこう子煩悩で、娘をかわいがっています。チェイニーのいったとおり、よき夫よき父親です。
 本物のナバールに会ってみたいという気持ちはありますが、ナバールがよき夫よき父親になるところは想像できませんから、これでいいのでしょう。
 そう思って、あなたは幸せに暮らしました。

(終わり)


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