ファイアーエムブレムの定め(未完)

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 アカネイア王家に伝わる家宝の盾、ファイアーエムブレムには、吉とも凶ともつかぬ言い伝えが伝えられていた。
「炎の紋章は、世界を救いし英雄の紋章なり。この紋章を授かりし者、世界の危機を救わん。炎の紋章は悲劇の皇帝の紋章なり。この紋章を英雄に授けし者、わが身の悲運を覚悟せよ。愛する者を失うことを覚悟せよ」
 それは、いくつかの伝承がごっちゃになって生まれた伝説だった。
 はるか遠い昔、別の大陸で、闇の神に翻弄されたあげく、最愛の妻をわが子に殺され、自らは妻と先夫とのあいだに生まれた子に殺された悲運の皇帝の物語。それに、同じ大陸に伝わる聖なる槍にまつわる伝説。その大陸からの移住者が伝えたふたつの物語に、かつてこの大陸の危機を救った英雄の物語が加わって、このような伝説が生まれたのだ。
 だが、王女アルテミスは、そんなことは知らない。それで、はじめにその言い伝えを聞いた幼い日、家宝であるはずのその盾に、なんともいえない恐怖を覚えた。
「ばかだなあ。そんなもの、迷信に決まっているじゃないか」
 世継ぎである兄王子は笑い、父王がたしなめた。
「昔から伝わる話を、そんなふうにバカにしてはいかん。まして、これはわが王家、ひいてはこの大陸にとって大切な宝なのだぞ」
「でも、おとうさま」と、アルテミスは素朴な疑問を口にした。
「これを人に授けたら、自分が不幸になるっていうんでしょう? それなら、だれにも授けるわけにはいかなくて、役に立たないではありませんか」
「たとえ自分が不幸になっても、なおかつだれかにこれを託さなければならない、世界の命運を託さなければならないというときに、この盾を授けるのだ。人の上に立つ者には、場合によっては、それだけの覚悟が必要なのだよ」
「つまり」と、兄王子が口をはさんだ。
「この盾を人に授けると不幸になるというより、自分の幸福と引き替えにしてもいいというぐらいの覚悟がないと、この盾をむやみに人に授けてはならないということなのですね」
「ふむ、そうともいえるな」
「ああ、そうか。それなら、この言い伝えはけっこう広く知られているわけですから、この盾を授けるというのは、盾を授ける相手にも、他の者たちにも、こちらににそれだけの覚悟があるのだという証になるわけですね」
「そういうことだ」
 王は、後継ぎの息子の言葉に満足し、うれしそうに目を細めた。


 数年後、ドルーアの地に荘園を与えられておとなしく人と共存していたかに見えた地竜族の王メディウスが突如として反逆を起こし、アカネイア聖王国は滅亡。聖王家のなかでただひとり、アルテミス王女だけが、アリティアの地に逃れた。
 王家の財産のほとんどは、逃げ出すときに残してこざるをえず、すべてメディウスに奪われることになったが、家宝のなかでただひとつ、ファイアーエムブレムだけは持ち出すことができた。
 アリティアに逃れた王女のもとに、各地から、メディウスとの戦いを決意した者たちが集まった。アルテミスは、彼らのリーダーのカルタス伯爵にファイアーエムブレムを授け、軍の指揮を託した。
 カルタス伯爵はアルテミスとは遠い縁戚にあたり、子供のころからよく知っている。人柄も能力も信頼するに足る人物で、他の者たちにも信頼されており、解放軍の指揮官としてふさわしい。
 子供のころに聞いた不吉な伝説は覚えていたが、気には止めなかった。
 自分は何もかも失い、ドルーアに捕らえられれば、まずまちがいなく処刑される身の上。これ以上失うものも、これ以上恐れるものもない。ならば、何を恐れることがあろうか。
 アルテミスをはじめとする多くの者たちの期待に応えて、カルタス伯爵はよく戦った。伯爵だけでなく、アカネイアから脱出してきた騎士たち、アリティアの市民たち、オレルアンやグルニアや国には属さない自由都市など、各地から集まってきた人々もまた勇敢に戦った。
 とりわけ、アリティアの市民たちの勇敢さは、聖王家に忠誠を誓うアカネイアの騎士たちも驚くほどのものだった。
 アリティアは、マケドニアやグルニアなど大陸西部と、アカネイアとの中間地点にあって、その地の利を活かした交易で栄える自由都市であり、聖王家を宗主として仰いではいるものの、忠誠心が厚いとは思われない。
 まして、そこに住むのは、商人や農民や漁民といった平民ばかりであり、騎士たちは、平民たちの忠誠心や勇敢さなど、それまで期待したことはなかったのだ。
 実際のところ、アリティアの市民たちは、聖王家への忠誠など、ほとんど持ち合わせてはいなかった。聖王家を宗主と仰いでいたもっとも大きな理由は、交易のために都合がよかったからである。
 アカネイアには毎年貢納を納めなければならなかったが、それは、交易によって得られる利益に比べればたいしたものではなく、貢納さえ納めて適当にごきげんをとっていれば、アカネイアがそれ以上の圧迫をアリティアに加えてくることはなかった。
 だから、アリティア市民たちは、聖王家に忠誠心をもってはいなかったかわり、べつだん反感ももってはいなかったのである。
 だが、ドルーアは違う。ドルーアは、明確に支配の意図をもって侵攻してきており、征服されたグルニア地方やマケドニア地方のいくつかの都市では、ドルーアへの絶対的な服従を余儀なくされていた。そればかりか、激しく抵抗した都市では、市民がことごとく虐殺されたところもあるという情報が入ってきている。 


だいぶん昔に書いて、ほったらかしにしていた話です。
完成の予定はないのですが、気が向いたらつづきを書くかも。
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ひょっとすると書く気を起こすかもしれません。


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