ミディアの日記−騎士志願

ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
時代はゲーム開始時の8年前(メディウス復活の1年前)からはじまります。

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 2002年6月20日更新


 アカネイア暦596年3月5日  2002年3月5日UP

 わたしはきょう十三歳の誕生日を迎えた。騎士になるなら、わたしは、もう、騎士見習いとして伺候する年齢をすぎている。同じ年の騎士志願の男の子たちは、もう王宮にあがって一年か二年か三年はたっている。ジョルジュなんて、わたしと二つしか違わないのに、もう王宮に上がって八年になるし、弓騎士に正式に叙任されるという話まで出ているという。
 だからおとうさまにお願いした。「騎士見習いに推薦してください」って。そうしたら、「女性が騎士になる必要はない」と言われた。「わたしに後継の男子がいないからといって、女性のおまえが無理をして息子の役目をはたすことはない。よい騎士を婿にとればよいし、どうしてもというなら嫁にいってもよい」って。
 おとうさまは、わたしが剣や乗馬の稽古をするのを、無理していると思っていらっしゃる。そうじゃないのに。おとうさまには感謝している。実の両親を亡くしたあと、親友の娘だからと引き取って、わが子のように育ててくださった。実の親と変わりない愛情をそそいでくださった。その恩返しをしたいという気持ちはもちろんあるけれど、わたしが騎士になりたいのは、自分がなりたいからなのだ。
 わたしは、貴族のだれかに嫁いで、深窓の貴婦人として生涯暮らすなんて考えられない。かといって、婿をとって、夫に守られて生涯を暮らすというのも、やっぱり性に合わない。
 アカネイアの貴族の娘がなんらかの仕事につくといえば、ふつうはシスターぐらいのものだが、わたしにはシスターの適性はない。子供のころ、貴族の子女のたしなみとして適性検査を受けたことはあったけど、適性がないと診断された。どうもわたしは、シスターになるには性格が少し攻撃的すぎるらしい。それに、あまり信心深くないし。やっぱり騎士に向いていると思うんだけどなあ。


  アカネイア暦596年3月10日  2002年4月24日UP

 きょう、ジョルジュが家にきた。おとうさまに用事があったらしいんだけど、そのあと話をした。
「わたしは騎士になりたいのに、おとうさまはわたしが無理をしていると思ってる」
 そうこぼしたら、ジョルジュは笑った。
「きみの父上が反対しているのには、宿舎の問題も大きいと思うがね」
 ジョルジュがそう言って説明したところでは、騎士見習いは王宮の宿舎に寝泊まりしなければならないが、ふたり一室ずつで、女性はひとりもいない。つまり、わたしが騎士見習いとして王宮にあがれば、男性と同室になるというのね。それは世間体が悪いし、わたしと同室になった人がわたしにふらちなまねをしないか、おとうさまは心配しているということらしい。
「やましいことがなければ、世間体など気にする必要はないわ。邪推したがる者は勝手に邪推させておけばいい。仮にもアカネイアの騎士を目指すものが、騎士道に反することをするとも思えないし」
 そう言ったら、ジョルジュは、「きみのそういうところも心配のもとなのだ」と答えた。
「騎士や騎士見習いが騎士道を守っているとはかぎらない。栄光あるアカネイア騎士団といえども、いろんな人間がいるんだ。なかにはラングのようなろくでもない騎士もいる。そういうろくでなしが上官になったり、同僚になったりすることもあるんだ。それがきみはわかっていない」 
 ジョルジュは、ラングとかいう騎士をひどく嫌っているみたいだ。それで、理由を聞いてみて驚いた。
「あいつは奴隷商人と結託してるんだ。父親の代かららしい。ノルダの剣闘士は、むかしは自由契約した者にかぎられていたのに、いまではほとんど全員が奴隷だ。やつの父親が、奴隷商人や闘技場のおやじに賄賂をもらって、そのようにはからったんだ」
 これはわたしには初耳だった。剣闘士たちは、純粋に強くなることを求めてか、またはお金を稼ぐためか、とにかく自由意志で剣闘士をやっているんだと思ってた。だから、闘技場には何度も観戦にいったことがある。わたしはオグマの大ファンなのだ。
 なのに、ジョルジュは、オグマもまたむりやり奴隷剣闘士にされたひとりだという。
「あのオグマも、七歳ぐらいのときに売られてきたんだ。彼と少し話したことがあるのだが、どうやらさらわれてきたらしい」
「ひどい。どうしてそんなことに荷担するような男が騎士になれたり、騎士のままでいられたりするの?」
 思わずジョルジュに詰め寄った。彼に文句を言ってもしかたないんだけど。
「それがアカネイア騎士団の現状なのだ。悲しいことだがな」
 ジョルジュはそう言って肩をすくめた。彼は王宮にあがって八年。騎士団の汚いところをいろいろ見て不満を持っているようだ。「騎士ってそんなにいいもんじゃないぜ」と何度か言ってたのを、いままで聞き流していたけど、そういう理由があったんだ。
 ひどくショックだ。でも、そんなひどい騎士がいるのなら、なおさら背を向けられないという気もする。現状がひどいからといって、素知らぬ顔をして避けていては、ますますひどくなってしまうんじゃないだろうか。

 ここで名前だけ登場するラングは、紋章の中ボスのあのラングです。ジョルジュが少年のころから嫌っていたとか、奴隷商人と結託していたというのは、ここだけの設定ですので念のため。ちなみに、わたしはラングをオグマで倒しました。

  アカネイア暦596年4月2日  2002年5月16日UP

 亡くなった父の部下だったリュイス隊長が家にきた。なつかしい。子どものころにかわいがってもらったことは覚えているけど、父が亡くなって以来、会うのははじめてだ。今まで辺境を転々としてらしたけど、今度からアカネイア勤務になったという。
 栄転といえば栄転なんだけど、リュイス隊長の上官は、ジョルジュが嫌っていたラング子爵らしい。
「ラングって人は、会ったことはありませんけど、評判が悪いらしいですね」
 そう言ったら、リュイス隊長は困ったような顔をした。何となく、雰囲気からすると、リュイス隊長もラングって人を嫌っているけど、それを口に出すのは避けたいみたいだ。
 すると、おとうさまがおっしゃった。
「騎士は上官を選べないし、上官の命令に従わなければならない。ミディア、おまえはそれがわかっていないんだ」
 それから、おとうさまは、わたしが騎士になりたがっていることをリュイス隊長に説明した。悔しいことに、リュイス隊長もおとうさまと同じ意見みたいだ。
「わたしもミディアさまが騎士になられるというのには心配です。配属される部署や地位にもよりますが、ミディアさまの美点がそこなわれるようなことになって欲しくはありません。アカネイア騎士団の現状を考えましても……」
 リュイス隊長の言い方に、アカネイア騎士団への不満が感じられたので、「そんなにひどいの?」とたずねたら、隊長はまた困ったような顔をした。
「失言でした。不敬罪になりかねないようなことを口にしてしまいました。お忘れください」
「ここだけの話だ」と、おとうさまがおっしゃった。
「ここだけの話なら本音を口にしてもよい。だが、王宮内で同じ言葉を口にしたら、それを耳にした相手しだいで首が飛びかねんこともある」
「前向きな批判を不敬罪にしたてて密告する者がいるということですか?」
 そうたずねたら、おとうさまは「そうだ」とおっしゃって、つけ加えた。
「悪気がなくても結果的に密告してしまう者もいる。たとえば、ミディア、おまえがリュイスのいまの言葉をもっともだと思い、それをだれかに話したとする。リュイスでなくても、別の者の言葉でもだ。すると、その相手は、さっそく自分の上官なり王族のだれかなりにご注進をするかもしれん。その場合、おまえは密告者ということになるな。逆に、おまえが信頼できると思っている友人に、王家や国、または自分の上官を批判するようなことを口にしたとする。おまえの友だちは、それをもっともだと思って、だれかにしゃべるかもしれん」
 おとうさまの言おうとしていることがなんとなくわかってきた。
「王宮では、うかつに本音を口に出せないということなのですね」
「そうだ。たとえば、さっきラング子爵についてよくない噂を聞いたといったが、そういうことはいっさい口にしてはならん。でないと、おまえに気を許して本音を口にした者を破滅に追いやるようなことにもなりかねんからな。王宮とはそういうところなのだ。それでも騎士になりたいのか?」
 なりたいというと、リュイス隊長が提案してくれた。
「どうしてもというなら、わたしの養子扱いで騎士団の仕事を少しのぞき見ることはできますよ。恐れながら、わたしの従者の立場になってしまいますが。それに、わたしの上官はラング子爵ですから、それが気がかりではありますが」
「いや、かえっていいかもしれん。気の合わない上官の命令に服従するというのがどういうことなのか、自分で体験することになるだろう。……できれば、そんな体験はさせずにすましてやりたかったのだが、宮仕えを望むなら避けては通れまい。なれば、自分の進路をはっきり決める前に知っておいたほうがよかろう」
 おとうさまは、それでわたしの気が変わることを期待しているみたいだ。宮仕えの苦労をさせたくないと思ってくださるのはありがたいけど、わたしはやっぱり、たいへんだと脅されただけで引っ込みたくはない。いや、もちろん、宮仕えがたいへんらしいのはわかったけど。
 だから、リュイス隊長の申し出をありがたく受けることにした。  


  アカネイア暦596年4月4日  2002年6月20日

 約束どおり、リュイス隊長の館を訪ねると、わたしに護衛をつけると言われた。
「護衛なんていりません!」
 そう答えたら、リュイス隊長のほうに事情があるという。知り合いの商人の息子さんで、アカネイア騎士団の勇者をめざしているんだけど、親御さんが反対しているらしい。で、あいだに入ったリュイス隊長が、わたしの場合と同じで、試しに騎士団の仕事を見てみたらどうかと提案したらしい。
「わたしはべつに、女性が騎士をめざすのも、商人の息子が勇者をめざすのも、かならずしも本人のためにならない選択だとは思いません。けれども、騎士団を美化してとらえたまま騎士団に入るのはどうかと思います。彼の父親やあなたの父上が反対なさるのも、おもにそれが理由です。わたしを含めて、騎士の息子として生まれた者には、騎士をめざす以外の生き方はまず許されませんが、あなたや彼には自分の進路を自分で選ぶ余地があるのですからね」
「リュイス隊長は騎士になりたくなかったのですか?」
 そうたずねたら、「いいえ」という返事が返ってきた。
「少年のころはりっぱな騎士になるのが夢でした。それ以外の夢をもつことは許されていませんでしたしね。それが悪かったとは思いませんが、進路を選ぶ余地のある人は、選ぶ前に、自分が選ぼうとしているのがどういう道か、知っておいたほうがいいのではないかと思いますよ」
 リュイス隊長のいうことは、たしかにもっともだと思う。気持ちを変えるつもりはさらさらないけれど、前もって知っておくのは悪いことではない。
 紹介された商人の息子さんは、アストリアという名前だった。商人の息子さんと聞いて、口数が多くて調子のいいタイプを想像していたけど、想像とかなりちがった。まじめそうで、少し無愛想な感じがする。たしかに、あまり商人向きじゃないかもしれない。へらへら調子のいいタイプの男性はちょっと苦手なので、そうじゃなくてほっとした。


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