立川が書いたファンタジー小説「聖玉の王」シリーズの世界が舞台の連載小説です。
2022年2月12日UP
ハウカダル共通暦324年種まきの月10日
今日教わったのは、恋の歌でもあり、友情の歌でもある。そういう歌だった。
ホルム王国第二騎士団の騎士ソルホグニとガンザは親友同士だった。
ソルホグニは人間で、ガンザは魔族。
そんな種族の違いは、友情の妨げとはならなかった。
ともに勇敢で、忠誠心厚く、
剣技にも部隊の指揮にも優れ、
王に信頼されていた。
幾度もともに出征し、背中を預けて戦ううちに育まれた友情だったが、
ガンザの妹サーニアとソルホグニが恋仲となったとき、
ガンザはすぐには喜べなかった。
友が自分の七倍の速さで年老いていくというのもつらいのに、
人生の伴侶が七倍の速さで年老いていくつらさはいかばかりか。
しかも子を残せぬとなれば、
伴侶亡き後、子に愛を注ぐこともできぬ。
いずれ訪れる妹の悲しみを思いやって、
ガンザははじめ、親友と妹の恋に反対したが、
ふたりの想いの真剣さを知り、
ついにはふたりの恋を祝福して、
両家の家族を説得した。
やがて魔界の魔族がニザロース王国に侵攻し、
クルール三世陛下率いるホルム王国軍が救援に向かうことになったとき、
ガンザもソルホグニも王に従って出征した。
人間のソルホグニにとってはもちろん、
魔族のガンザにとっても、魔界から来た魔族軍は侵略者。
クルール三世陛下は忠誠を誓った主君であり、ホルム王国は愛する祖国。
主君と祖国と愛する人々を守るため、
ガンザもソルホグニも勇敢に戦った。
激戦のさなか、ガンザに迫る敵の矢に気づき、
ソルホグニは身を挺して友を守り、
自身が矢を受けて戦場に斃れた。
驚いて抱き起そうとするガンザの腕の中で、
主君と祖国と愛する婚約者の守護を友に託して、
ソルホグニは息を引き取った。
ガンザの嘆きは如何ばかりか。
王もまた忠臣の死を知ると嘆き悲しんだ。
なんとか戦いに勝利をおさめたものの、
ガンザの心は晴れぬ。
悲嘆に暮れながら帰国したガンザを待ち受けていたのは、
王が部下の魔族たちに謀殺されたという噂に惑わされた暴徒たちに、
両親をはじめ多くの魔族たちが殺され、
祖父と弟妹たちも行方知れずという驚愕の事実。
さらに暴徒たちの魔の手は、
戦いから帰還した魔族の騎士や兵士たちにも向かう。
王ですら止めようもない狂気と憎悪。
命がけで守ったはずの祖国の人々が、
愛する家族を凶刃にかけ、
自分たちをも葬り去ろうとする!
ガンザをはじめとする魔族の騎士たちや兵士たちは、
生死の知れぬ家族の安否を気づかいながら、
命からがら王都を脱出した。
以来、彼らがどうなったのか、
だれも知らぬという。
うーん、これはつらいよね。守ろうとしている人たちに憎まれ、命を狙われるというのは。自分をかばって亡くなった親友に、守ってくれと頼まれたというのに。親友の遺言をかなえられない。せめて生死不明の妹と再会できていれば、婚約者を守ってほしいという遺言だけは、ひょっとしたらかなえられたかもしれないけど。
ガンザはどうなったのだろう? 生き延びることができたのだろうか? 祖父と弟妹に再会できたのだろうか?