マリータの日記−フィアナ村にて

トラキア776のマリータがもしも子供のころから日記を書いていたら……。
これは2ページ目で、マリータがエーヴェルに引き取られてまもなくからの日記です。

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  2002年4月24日UP 2002年6月20日修正


  768年8月5日  2001年12月4日UP

 きょう、フィアナ村についた。村の人たちにもしょうかいしてくれた。エーヴェルさんは、りょうしゅさまだったんだ。みんなにすかれているみたいだ。こんなふうに、みんなにすかれるりょうしゅさまもいたんだ。ちょっとおどろいちゃった。
 とくに、オーシンって子とハルヴァンって子が、よくエーヴェルさんのやかたにでいりしているらしい。ふたりとも、わたしより四つ年上らしい。
 エーヴェルさんに「けんをおしえてください」っておねがいしたら、ひきうけてくださった。わたしは、エーヴェルさんみたいにつよくなりたい。


  768年10月1日  2001年12月4日UP

 とうさまとはぐれてもうふた月になるのに、とうさまはむかえにきてくれない。さがしまわっても、わたしがここにいるってわからないんだろうな。トラキアは広いから。
 エーヴェルさんが、あらためて、じぶんのこどもにならないかっていってくれた。とうさまがみつかったら、とうさまについていくかどうか、そのとききめればいいからって。むりにひきとめるようなことはしないからって。いい人だ。とっても。で、わたし、エーヴェルさんのこどもになることにした。


  769年1月18日  2002年1月18日UP

 きょうは、かあさまが出かけたので、ハルヴァンとけんのけいこをした。ハルヴァンはおのだけど。オーシンは見てただけ。ハルヴァンとけいこをするのはいいけど、オーシンとはダメっていわれた。きけんだからって。きっと、オーシンはつよいんだ。そうきいたら、オーシンとけいこをしてみたいなあ。


  769年6月2日  2002年1月18日UP

 きょうは、かあさまもハルヴァンも出かけた。チャンス! ってので、オーシンとけいこをした。オーシンは、しかられるからって、しぶってたけど。
 び、びっくりした。死ぬかとおもった。はじめ、オーシンがこうげきしてきたときは、ハルヴァンとあまりかわりがなかったんだけど……。わたしのこうげきのあと、オーシンがこうげきしてきたときは……。すごい力。かあさまにきんしされたわけがよくわかったわ。「いかり」のスキルっていうんだって。いいなあ。わたしも「いかり」のスキルがほしいなあ。


  771年2月1日  2002年2月1日UP

 きょう、ハルヴァンと剣のけいこをしていたとき、ハルヴァンが、わたしの木剣があたったうでをおさえて、ひどくぴっくりした顔をした。わたしの体が白く光って、あたったところがひどくいたかったんだって。オーシンの「いかり」よりダメージがきつかったって。「なにをしたんだ?」っていうの。
 それって、ひょっとして、とうさまが使ってたわざかな? たしか「月光剣」とかいうわざだった。わたしにあれが使えるようになったんだろうか? だとしたらうれしい。
 こんど、かあさまにたしかめてみよう。かあさまはものしりだから、月光剣のことも知っているかもしれない。


  771年2月3日  2002年2月1日UP  2002年6月20日修正

 かあさまに月光剣をみてもらった。あたらしいわざが使えるようになったみたいだから、みてくださいっていって、ハルヴァンに使ったときのかんかくをできるだけ思い出してみた。
 はじめはうまくいかなかった。なんかいも失敗して、七回目か八回目ぐらいでうまくやれた。
 かあさまもひどくびっくりしていた。月光剣のことを知っているみたいで、「月光剣?」とつぶやいて、それから頭をかかえてうずくまってしまった。びっくりした。かあさまはむかしのきおくをなくしているんだけど、月光剣をみたことがあるような気がするっていうの。それから、こうも言った。
「マリータ。あなたはいつか月光剣だけでなく、流星剣も使えるようになる。そんな気がする」
 わたしはびっくりして、とうさまが流星剣を使えたことを話したら、「やっぱり」って。
「あなたのせなかのあざを見たときから、そう思ってた。なぜかはわからないんだけど」
「とうさまは、せなかのあざのことも、流星剣のこともひみつにしろって言ってました。わたしは、かあさまにだけは話しておきたくて話したんですけど、せなかのあざと流星剣はなにか関係あるんでしょうか?」
 そう聞いてみたら、かあさまにもわからないって。きおくをなくすまえなら知っていたかもしれないけど、いまはわからないんだって。「なんとか思い出してみる」っていうから、「それはやめてください」ってたのんだ。なくしたきおくをおもいだそうとするときのかあさまは、ひどくつらそうだし、それに……。
 わたしは、かあさまのきおくがもどってほしくない。かあさまのきおくがもどったら、わたしのかあさまじゃなくなってしまいそうで、こわい。


  773年4月11日  2002年4月11日UP

 最近、紫竜山の山賊の被害がひどい。それで、明日、かあさまたちが山賊退治に出かけることになった。オーシンもハルヴァンもいっしょにいくのに、わたしはるすばん。でも、「るすを守るのも大切な役目だから」って言われた。「ちゃんとるすを守っている人がいないと、安心して村を離れられないでしょう?」って。
 それはたしかにそうだと思う。だから、わたし、ちゃんと村を守って見せる。


  773年4月12日  2002年4月11日UP

 かあさまたちは、山賊を降参させて戻ってきた。山賊の親分はダグダっていうんだけど、それほど悪い人じゃなかったらしい。
「悪い人じゃないのに、山賊なんてしていたんですか?」
 そう言ったら、かあさまは「生活のためなだよ」と答えた。
「戦いで畑や家を失った者たちが、どうやって生活していったらいいのかわからなくなり、山賊や盗賊になる。盗みをなりわいとする者には、そういう者も多い。生きていくためには盗みをするしかないと思いこんでしまっている。わたしにもそういうころが……」
 言いかけて、かあさまは考え込んだ。
「わたしも盗みをしていたころがあったような……、そんな気がしたんだけど……。思い出せない。頭が痛い」
 かあさまは頭を押さえて、「ま、いいさね」と、考えるのをやめた。
 かあさまは、ときどきそういうことがある。なにかのきっかけで、記憶がほんの少しだけ戻りかけるんだけど、思い出そうとすると、頭が痛くなるらしい。
 たぶん、かあさまは生活のために盗みをしていた時代があったんだ。そう思ったら、山賊や盗賊が悪い人ばかりじゃないというのも、納得がいく。
 ダグダ親分は、かあさまに説得されて、畑を開墾することにしたらしい。
「よほどあこぎな金持ちとかがいれば、獲物にすることもあるかもしれないけど、村を襲うことはしない」
 そう約束したという。
 これは、たんに山賊を退治するより、ずっとすばらしいことだと思う。


  773年4月24日   2002年4月24日UP

 ダグダ親分が、娘さんのタニアを連れて遊びにきた。
「男手で育てたら、すっかり男の子のようになっちまって。紫竜山にはいまのところ荒くれ男ばかりしかいないからな。女の子の友だちができないかと思って、連れてきたんだ」
 ダグダ親分の言い方は、タニアには不快そうだった。そりゃまあ、そうよね。
「マリータちゃんがいてよかった。人形遊びとか、女の子らしい遊びを教えてやってくれ」
 そう言われたけど、わたしは人形遊びなんて知らない。困ったなあ。そう思っていたら、ふたりきりになったとき、タニアが言った。
「あたしは人形遊びなんてやったことないし、やりたくもないよ」
「わたしも。遊びって、いつも、ハルヴァンと剣のけいこばっかりしてるから」
 そう答えたら、ふきげんそうだったタニアの顔がパッと明るくなった。
「へえ。あたしは弓のけいこばかりしてる。よかった。あんたと気が合いそうで」
 こっちもよかった。タニアって、いい人みたいだ。で、弓を射るところを見せてもらった。とてもうまい。そう思ってたんだけど、いつのまにかそばにきていたかあさまが言った。
「肩に少し力が入りすぎているね。もっと力を抜いたほうがいい」
 タニアは気を悪くしたみたいだった。
「おばさん。弓が使えるのかい?」
 かあさまはとまどったような顔になった。
「いいえ。使ったことはない……と思うんだけど」
「じゃあ、素人は黙ってな。文句があるなら射てみなよ」
 乱暴な言い方に、ダグダ親分はタニアを叱ったけど、かあさまはそれを止めて、タニアから弓を受け取った。そして何射か射たんだけど、すごくうまい。全部の矢がみごとに一点に集中した。ダグダ親分もタニアもすっかりびっくりしていた。
「おれも弓を使うけど、エーヴェルさん、あんたの足元にも及ばない。こんなにうまい射手を見るのははじめてだ。いや、うまいなんてもんじゃない。名人というか……ほとんど神業だ。弓ってのはコツがあるんだ。どんな天才でも、はじめて弓をもってこんなにうまいわけはねえ。あんた、弓をやってたことがあるんじゃねえか?」
 かあさまは頭をかかえこんだ。まちがいない。かあさまは弓をやってたことがあるんだ。それも名人クラスの弓使いだったんだ。
「かあさまは昔の記憶がないんです。でも、思い出そうとするとひどく頭が痛くなるみたいで……。だから、そっとしておいてください」
 そう説明したら、ダグダ親分はびっくりしていた。かあさまが世襲の領主でもなければフィオナ村の出身でもないことは知ってたらしいけど、昔の記憶がないとは知らなかったらしい。
 ともかく、そのあとかあさまとダグダ親分は家に入り、わたしはタニアをオーシンとハルヴァンに紹介した。しばらく遊んでたんだけど、そのうちタニアはオーシンとケンカになり、ぷりぷりしながら帰っていった。
「男の子みたいだけど、気持ちのいい子だね」
 そう言ったら、ハルヴァンが、「あの子はじゅうぶん女の子だぜ」と言った。
「マリータよりずっと女の子だよ。たぶん、うちの妹よりもな」
 ちょっとびっくり。アンナはとても女の子らしいのに、タニアのほうが女の子らしいって?
「わからないのは、マリータが子どもだからだ」
 どういう意味よ、それ?


  773年9月20日   2002年4月24日UP

 タニアが遊びにきた。紫竜山からフィアナ村まではけっこう遠いんだけど、タニアはわりとよく遊びにくる。ダグダ親分かその子分のマーティさんといっしょのときが多いけど、きょうみたいにひとりでくることもある。でも、くるたびにオーシンと口ゲンカになり、さんざんやりあったあと、ぷりぷりしながら帰っていく。きょうはオーシンはるすだから、ケンカにならないだろう。
 そう思ってたんだけど、タニアはそわそわして、なんだかつまらなさそうだ。
「あすになれば、オーシンは帰ってくるけど。泊まってく?」
 かあさまがそう言うと、「べつに」と、タニアはそっぽを向いた。
「いつもケンカするのに、オーシンに会いたいの?」
 そう聞いたら、タニアは怒ったみたいで、まっ赤になって、「そんなことない!」という。でも、結局、タニアは泊まっていくことになった。ダグダ親分には、かあさまが村ののろし台を使って連絡した。
 ハルヴァンにその話をしたら、「まだ気づいていないのか?」と言われた。
「あのふたりは、仲がいいほどケンカするってやつだぜ。マリータは鈍いなあ」
 そうか。そうだったのか。そういえば、のろしではすまない込み入った用があるときや差し入れがあるとき、かあさまの手紙や差し入れを紫竜山にもっていくのって、いつもオーシンだな。
 そうか、そうだったんだ。タニアがいつも会いにくるのは、わたしでもかあさまでもなくて、オーシンだったんだ。で、オーシンがいつもお使いを引き受けているのも……。全然気がつかなかった。


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