マリータの日記−平和と戦争のあいだに

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 2003年6月19日UP


  774年10日3日   2003年5月17日UP

 きょうは突然、トラキアの竜騎士がやってきて、庭に着地した。竜を見るのははじめてなのでびっくりした。
 リーフさまたちが見つかったらまずいとこだったけど、さいわい、三人とも館にいた。それで、かあさまは、リーフさまたちに「けっして外に出ないように。窓から顔を出さないように」と注意して、竜騎士の応対に外に出た。わたしもついていった。
 竜騎士はディーンと名乗った。ディーンって、たしか伝説の竜騎士の名前よねえ。
「すごい名前」と思わずつぶやいたら、かあさまにコツンと頭をこづかれた。
「失礼なことを言うんじゃないよ」
「かまいませんよ」と、ディーンは苦笑した。
「父親が何を思ったか、こんな名前をつけてしまって……。名前負けするんじゃないかと、子供のころから言われつけていますから」
 トラキア兵は野蛮だと聞いたけど、この人は全然そんな感じはしない。かあさまのことも、この村の領主として尊重しているようで、話し方とか態度がていねいだ。
「で、トラキアの竜騎士どのが何のご用なのでしょう?」
「わが国のアリオーン王太子殿下が、このたびターラのリノアン公女殿下と婚約いたしました。それをお知らせにまいったのです」
 驚いた。ターラのリノアン公女のことは、リーフさまたちから聞いている。ターラはグランベル帝国に征服されたあと、グランベルと手を結んだトラキアの監視下にあるって聞いたけど、公女がどうなったのか、リーフさまたちはとても心配している。自分たちをかくまったためにターラが滅ぼされたという気持ちが強いから、よけい気になってしかたがないみたいだった。
 そのリノアン公女がトラキアの王太子と婚約? それって、やっぱり、むりやり結婚させられたってこと?
「政略結婚?」
 思わず叫んだら、また、かあさまにこづかれ、ディーンが苦笑した。
「違います。おふたりは愛しあって結婚なさるのです」
「怒りださないところをみると、うそをおっしゃっているようにはみえませんが」
 かあさまが疑わしそうに言った。
「ほんとうに? 征服された都市の公女と征服者の王子が政略抜きで愛しあっていると?」
「ほんとうです。完全に政略抜きとは申しません。トラバント陛下には、おふたりの結婚を認めるにあたって政略的な計算もおありです。リノアン殿下にしても、ご自分の結婚によってターラの安全がはかられることは考慮しておられるでしょう。それでも、おふたりが愛しあっておられるのはまぎれもない事実です」
「それなら、お祝いを申し上げましょう。おふたりが幸せになられますように」
「ありがとうございます。たしかにお伝えいたします」
「それにしても、トラキア領でもないこの村に、どうしてわざわざ知らせにきてくださったのですか?」
「リノアン殿下の望みによって、アリオーン殿下がお命じになられたのです。北トラキア一帯の町や村には、ターラ市に親戚や友人知人がいて、安否を案じている者も多いと思われますゆえ、リノアン殿下は、それを気にかけて、安堵するように伝えたいと望んでおられるのです。つきましては、これを目立つ場所に貼りださせていただきたいのですが」
 ディーンが書状を差し出し、かあさまが目を通した。わたしも横からのぞきこんだ。ディーンが言ったのと同じ内容の触れ書きが書いてあった。
「わかりました。そのようなことでしたら、わたしが責任をもって広場に貼っておきます」

 かあさまが約束すると、ディーンは帰っていった。
 そのあと、リーフさまたちにディーンが言っていたことを話したけど、リーフさまは「信じられない」と言った。
「リノアンはむりやり結婚させられるんだ。でなければ、ターラの人々のために結婚するつもりなんだ」
「そう決めつけるものではありません」と、かあさまが諭した。
「アリオーン王太子はおだやかで民思いの心やさしい人物だと聞いています。おそらく本気でリノアン公女を大切に思っているのでしょう」
「そうだろうか? トラバントの息子なのに?」
「親子だからといって性質や考え方が同じとはかぎりませんよ。シグルド公子の反乱では、反乱軍の多くが親や兄弟と思想を異にして戦ったと聞きました」
「そのとおりです」と、ふいにフィンさまが口をはさんだ。
「アゼルどのはアルヴィス皇帝の弟、レックスどのはランゴバルドの息子、ティルチュどのはレプトールの娘。兄弟でも親子でも、心はまったく違っていました。それをよくわかっているはずのわたしまで、トラバントのこととなると頭に血がのぼって……。エーヴェルどのに言われるまで失念しておりました」
 リーフさまはじっと考え込んで口を開いた。
「……でも、アリオーン王太子はトラバントに従っている。シグルド軍に加わっていた人たちと同じには考えられない」
「そうですね。わたしも彼らとアリオーン王太子をいっしょにするつもりはありません。ただ、トラバントの息子だから同類だと決めつけるのは、早計かと思われます」
「うん。それは肝に命じておこう。……で、リノアンとターラはだいじょうぶなのだろうか」
「アリオーン王太子が婚約者とその町を保護するつもりなのはたしかでしょう」と、かあさまが言った。
「リノアン公女さまもそれを信じて、婚約したことを北トラキアじゅうに知らせようとしたのでしょう。ターラも自分も無事だと知らせるために」
 かあさまがまっすぐにリーフさまを見たので、はじめて気がついた。リノアン公女がターラの無事を知らせたいと望んだなかには、リーフさまたちも含まれていたのだ。
「わたしたちに心配させまいとして……」
 リーフさまは声をつまらせた。
「……でも、ほんとうに彼女たちは安全なのでしょうか?」
「いまのところはだいじょうぶでしょう。ただし、トラキアの王はトラバント王だし、トラキアはグランベル帝国を恐れています。グランベルかまたはトラバント王がターラをつぶそうとしたとき、それに逆らってリノアン公女とターラを守る度胸と力がアリオーン王太子にあるかどうかは……。わかりませんね」
 リーフさまはうなずいた。
 つまり、いつかターラはリーフさまの助けを必要とするようになるかもしれないのだ。それでも、いま現在、ターラが安全で、国も両親も失ったリノアン公女さまに支えとなる男性があらわれたのなら……。この婚約を祝いたい。


  775年6月20日   2003年6月19日UP

 かあさまとタニアとオーシンと四人でマンスターに買物にいった。日用品のおおかたはフィアナ村で自給できるけど、大きな町でしか買えないようなものもあるし、国際情勢ってのを知る目的もあるしね。ハルヴァンは、リーフさまたちといっしょに、村の守備のために残っている。
 マンスターにきたのは一年ぶりだけど、以前よりずいぶん暗い感じがする。みんな、ひどく怯えている感じだ。
 前にきたときだって明るい町じゃなかった。マンスターはもう何年も前からグランベル帝国の占領下にあって、兵士が行き来したりしているから、大きな町でにぎわっていても、人々は不安そうで、どこかかげりがあった。フィアナ村と全然違うので、印象に残っている。
 でも、これほどじゃなかったような気がする。
 そう思ってたら、かあさまも同じことを感じたみたいで、お店の人にたずねていた。
「なんだかみんなビクビクしているようだけど、ひょっとして、ここでも子供狩りがおこなわれているのですか?」
「ああ、それもありますが」と、お店の人が声をひそめた。
「先月から総督が代わったのです。今度きたのはレイドリックという人で……。いばり散らすし、税金は値上げするし、それに……。目に付いた若い女を何人も館に召し上げて、帰してくれないんです。子供たちは、前の総督のときから帝国の兵士たちの目にふれないように隠してきましたが、娘たちは隠していませんでしたしね。あの娘たちはどうなりましたことか」
 なんだかとんでもない総督みたいだ。マンスターはどんどん住みにくくなっていくみたい。


  775年10月3日  2003年6月19日UP

 きょう、マンスターの総督がフィアナ村にやってきた。いきなりだったんで驚いた。オーシンのおとうさんが村の外で応対して、そのあいだにオーシンが知らせにきてくれたので、なんとか子供たちを隠すことができた。子供たちをマンスターの総督なんかに見られたら、子供狩りがやってきそうだもんね。
 もちろん、そうなったら戦うけど、目をつけられないにこしたことはない。リーフさまたちもいることだし。
 で、彼らが村に入ってこないよう、かあさまがすぐに出ていき、わたしも子供たちを家のなかに入れてから、ようすを見にいった。みるからに険悪な雰囲気が漂っていた。
 かあさまと言い争っているのが総督だと、すぐにわかった。ひとりだけ高価そうな服を着て、いばった態度をとったからだ。
「ほう」と総督がこちらを見た。
「なかなかかわいい娘ではないか。この娘でもいいぞ」
 言っている意味がよくわからなかったけど、気持ちが悪くて、嫌悪感でゾッとした。
 総督が一歩こちらに踏み出したので、思わず後ろに下がった。恐いというより、気持ちが悪かった。
 すると、かあさまは、大剣を抜いて総督に突きつけた。
「娘に手出しはさせない」
「なんだと! なまいきな!」
 総督は横に控えた部下のひとりにアゴをしゃくって合図し、部下が槍をかあさまに向かって突き出した。
 かあさまは槍を叩き切った。
「わたしの娘に手出しする者は許さない」
「な、なんだと! 生意気な! この人数に勝てると思うのか?」
「五人かそこらにこのわたしが遅れをとるものか」
 総督と家来たちがびびっているのがわかった。けっこう臆病なんだ、この人たち。
「く、くそっ、それでも女か! なにが美人の領主だ。いくら美人でも、おまえみたいなのはお断わりだ!」
 総督は、わけのわからないことをわめくと、「覚えてろ!」と捨てゼリフを残し、帰っていった。
 あとでオーシンから聞いたんだけど、どうもあのレイドリックって総督、フィアナ村の領主が美女だという噂をどっかで聞いて、それが目当てで来たみたい。なに考えてんだろうね、ほんと。


  776年3月25日  2003年6月19日UP

 海岸地域で、近ごろ海賊の被害がひどいらしい。助けを求めてきたので、かあさまたちが討伐に出かけることになった。
 リーフさまたちもいっしょだ。でも、わたしとナンナさまはるすばんをすることになった。残念だ。ナンナさまも残念そうにしている。
 でもしかたがない。フィアナ村は平和だけど、村の外は、盗賊やら海賊やらが出て治安が悪いから、みんな出かけたら、村がそういう連中に襲われないともかぎらない。村を守る者が必要なんだから。
「もしも、あなたたちだけで無理そうな状況が起こったら、ダグダにのろしで知らせなさい」
 かあさまにそう言われたけど、できれば、それはやりたくないなあ。もちろん、必要になったらそうするけど。村を守るのが最優先なのだから。

 半端そうなところで終わっていますが、ここはゲーム開始の2〜3日前で、ゲーム開始の時点とともに、マリータは当分日記を書けない状態となります。そのため、この話はここで終わり。日記再開はダキアの森で目覚めてからです。

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