マリータの日記−戦争中・1

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 2005年3月11日UP


  776年9月24日

 きのう、日が暮れてから、盗賊たちが暴れているって聞いた。で、ほんとうに村を荒らしにきたから、全部倒した。
 サイアスさまがくださった元・暗黒の剣は、まるでわたしの分身のようだ。もう「暗黒の剣」なんて呼ぶのはやめよう。「マリータの剣」って呼ぶことにした。もうこれはわたしの剣なのだから。
 ともかく、村を襲った盗賊たちを倒したあと、わたしは盗賊団ダンディ・ライアンの砦に向かった。
 暴れているのは首領のパーンじゃなくて、コルホってちんぴららしいんだけど、でも、子分のやらかすことには、首領はやっぱり責任あるでしょ。パーンに文句を言おうって思ったんだ。
 そうしたら、砦にいたのはセイラムだった。状況はよくわからなかったけど、魔法でコルホを援護しているらしいのはわかった。
 わたしは腹を立てた。コルホはたぶん森の北西にある村を襲っていて、セイラムはそれを手伝っているのだと思ったんだ。
「見損なったわ、セイラム。村を荒らす連中を支援するなんて」
「コルホを助けたいわけじゃないが、軍隊がこっちに迫ってるんだ」
「軍隊? リーフさまの軍じゃないの?」
「リーフさま? リーフ王子の知り合いなのか?」
「よく知っているわ。なんでリーフさまと戦うのよ?」
「決まってるじゃないか。軍隊は盗賊をみれば殲滅しようとする。砦に近づけるわけにはいかない。生き残るため、パーンたちを守るために戦うしかない」
「リーフさまはそんなことはしないわ」
 セイラムは聞き入れてくれず、戦いになってしまい、やむなく剣のつかで彼を気絶させて縛りあげた。
 コルホとその子分が戻ってくれば戦うつもりだったけど、現われたのはリーフさまたちだった。
 リーフさまたちがこちらに向かっていると聞いたときから、いずれ会えると思っていたけど、それでもこうやって再会できたのが奇跡のように思える。
 だからかもしれない。かあさまが石にされたって告げられたときには驚いたけど、でも、いつかまたかあさまに会えると信じられる。こうやって奇跡が起こったんだもの。次なる奇跡も起こせる。わたしたちが最善を尽くすかぎり。
 で、そのあと、別の奇跡が起こったかと思った。とうさまに再会できたとばかり思ったのだ。
 とうさまの顔はもうほとんど覚えていない。でも、「王子」と呼びかけながら近づいてきたその人の顔を見たとたん、おぼろげになっていた幼いころの記憶がよみがえった。
「とうさま! とうさま!」
 思わず抱きついたら、「あんた、だれだ?」と言われた。
 その声は、暗黒の剣に取り憑かれていたときおぼろげに聞いたとうさまの声と少し違うような気がする。とうさまの声はもっと太く、もっと暗く沈んでいたような気が……。
 そう思いながら顔を上げると、その人はやはりとうさまに似ているように見えた。でも、夢うつつに聞いたとうさまの声からイメージしていた感じより、だいぶん若々しいようにも思えた。
「なに? シヴァの隠し子だって?」と、横からわたしの知らない人が声をかけた。あとになって、リフィスさんって人だとわかったけど。
 それで、その人がとうさまじゃないとわかった。とうさまの名前は「シヴァ」じゃなかった。とうさまの名前は思い出せないんだけど……。でも、聞けば思い出せると思う。シヴァって名前じゃなかった。それは確かだと思う。
「おれにこんなでかい子供がいるわけないだろ?」
「でも、おまえ、もう三十だろ? 三十男なら、これぐらいのガキも絶対いないとは言いきれないぜ」
「まあ、そんなに年上だったのですか?」と口をはさんだのは、やさしそうな雰囲気のプリーストだった。あとでサフィさんって名前だとわかった。
「そうだよ、サフィ。三十だぜ。あんたからみればいい年のおじさんだ。こいつよりおれのほうが、あんたと年の釣り合いがとれて……」
 熱心にそう言うリフィスさんを、シヴァさんが小突いた。
「二十九だ。まだ三十になっていない」
 表情をほとんど崩していないけれど、少しムキになっているようだ。
「そんなことより、王子」と、シヴァさんがリーフさまに向き直った。
「砦の奥が騒がしい。盗賊団をどうにかするつもりなら、早く侵入したほうがいいと思うが?」
「待ってくれ」と、セイラムが叫んだ。
「パーンは義賊だ! コルホはいろいろ悪さをしたが、パーンは違う」
「それならそれで、話をしてみたい」と、リーフさまが答えた。
「盗賊として小集団で行動すれば、グランベルに追い詰められるだけだろう。それよりも、ぼくに力を貸してもらいたいんだ」
「本気ですか?」
 セイラムの口調は疑わしげだったが、敬語になったところから、半ばリーフさまを信用しかけているのがわかった。
「本気だ」
「……わかりました。それならわたしをお連れください。わたしがパーンを説得します」
 それで、セイラムさんの案内で砦の奥に入った。リフィスさんはなぜかいやがっていたけど、しぶしぶ入った。どうやら彼は、パーンって盗賊団の首領と知り合いらしい。
 リフィスさまの軍にいたラーラって女の子も、パーンと昔の知り合いだと言い出した。セイラムと彼女は初対面みたいだけど。世の中って狭いのね。
 で、砦の奥まで進んで、もう一つ、世の中って狭いと思うことがあった。サフィさんはティナのおねえさんだったのだ。
 ま、そんなこんなで、リーフさまの軍に加わっていたわたしの知らない人たちの顔と名前を把握しきれないうちに、また新たな仲間が加わったのだ。
 盗賊団の盗賊たちは、パーンがひそかに隠し通路からみんな逃がしてしまったけど、パーンとティナのほか、パーンの親友だというトルードって剣士も仲間に加わった。
 で、戦いが終わったのは夜明け近くで、もうへとへと。村で仮眠をとって出発したんだけど、ひどく眠い。
 あの戦いのあと一日いっしょに旅したけど、まだメンバーみんなの顔と名前を覚えきれない。アスベルさんは覚えたけどね。リーフさまといつもいっしょにいるし、魔道士ってはじめて見るし、むちゃくちゃ強いし。
 強いといえばシヴァさんも強い。ダンディライアンの砦で戦っているのを見てよくわかった。さすがにとうさまに似ているだけのことはある。ひょっとするとかあさまより強いかもしれない。
 セイラムの話だと、トルードさんも強いらしい。まだ戦っているのを見たことがないから、よくわからないけれど。
 道中、シヴァさんとトルードさんに剣を教えてもらおう。先生がふたりもできたのはうれしい。 


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