2005年10月4日UP
776年10月4日
ターラは陥落してしまった。
で、わたしたちはリーフさまの故郷のレンスターをめざしている。リノアンさまやディーンさんやエダさんもいっしょだ。
で、ここはターラを出て一晩と一日歩き、最初に着いた村。いっしょに脱出したターラ市民たちはここに残していくことにした。村人たちは歓迎してくれるって言ってくれたから。
わたしたちも今夜はここに泊めてもらえることになった。あすの早朝には出発する。村人たちは、もう少し休息していったらどうかと言ってくれたけど、長居はできない。ぐずぐずしていてグランベル軍かトラキア軍に見つかったら、ここの村の人たちに迷惑がかかる。
わたしたちがいなくなれば、ターラ市民がここに残っていてもばれはしないだろう。
776年10月6日
強行軍で移動しつづけて、山に囲まれた盆地の村でほっと一息ついたところだ。
盗賊が村を襲ってきたので追撃して、盗賊たちの砦を制圧した。そのとき、なぜか、噂でしか聞いたことがないシャナンさまに出会った。
イザーク王国のシャナン王子さまは、長い髪にソードマスターの印の薄紫の上着をまとっておられると聞いた。まさにそのような姿をしておられた。
たぶん、単身で盗賊退治に乗り出されたのだ。さすがにシャナンさまだ。
で、「流星剣を教えてください」と頼んだ。子供のころからずっと流星剣にあこがれていたのだけど、いまはそれだけじゃない。
とうさまは剣聖オードの血を引いていたのだという。だから流星剣を使えたのだ。その血がわたしにも流れているというなら、流星剣を使えるようになりたい。かつてこの大陸の人々を救うために戦ったオードの技を、わたしも使えるようになりたい。一度は暗黒剣に捕われたわたしだから、オードの血が流れている証が欲しいと思う。
もちろん、オードの血を引いていようがいまいが、わたしはわたしなのだけど。
そういう理由がひとつ。もうひとつの理由は、いうまでもなく、リーフさまの力となり、かあさまを助けだすためには、強くなければならないからだ。
強いったって、暗黒剣に捕われていたときのような、ああいう力ではダメ。闇に染まらず、わたし自身が自分の力に呑みつくされてしまわない。そんな力でなくては。
もうとうさまの顔も覚えていないのに、流星剣を使ったときの姿は覚えている。あの技をわたしも使えるようになりたい。
そう思っていたので、シャナンさまに会えたのはうれしかった。
どことなく想像していたのとは違うのだけど。思っていたのよりはなんとなく軽そうな方だった。
でも、それがあの方の余裕というものなのかもしれない。
ま、それはおいといて……。
シャナンさまに、「流星剣を教えてください」とお願いした。シャナンさまは少し困られたようすで、「技に心を乗せろ」とおっしゃった。
心を乗せるとはどうすればいいのか?
よくわからなかったけれど、わたしにとって「心」といえば、やっぱり、かあさまを助けたいという気持ち、リーフさまの力になりたいという気持ちだ。心を暗黒に捕われず、かあさまを助けだしたい。リーフさまの力になりたい。それに、子供たちがもう子供狩りに怯えなくてもいいような世界になってほしい。
そう願いながら素振りをした。
そうしたら……。
流星剣を使えた! なんだかものすごく体が軽く、剣を振った手の動きが速かった。いつもなら一振りするあいだに、五回ぐらい剣をふるえたのだ。
さすがはシャナンさまだ。軽そうだなんて思って悪かった。
シャナンさまは驚いておられた。どうやら、すぐには使えるようになれないと思っておられたらしい。「流星剣を教えてください」って頼んだとき、困っておられたように見えたのは、口では説明しにくい内容だったか、難しいと思ったからだろう。
わたしって、もしかして才能がある?
はっ、いけない。技を覚えたことで有頂天になるなんて。これでは暗黒剣に捕らえられたときと同じになってしまう。
わたしは強くなりたいと思っている。これは否定しない。だけど、その思いに捕らわれてはいけない。
ひょっとして、シャナンさまが困っておられたように見えたのは、わたしのこういう心を心配なさったのだろうか。
776年10月8日
ここは「暗黒の森」という森にある暗黒教団の寺院だ。
暗黒の森を抜けてくる途中で仲間が増えた。その一人はシャナム。そう、このあいだシャナンさまとばかり思っていたのは、シャナンさまに名前と容姿がよく似た別人だったのだ。
「シャナンさまじゃなかったのに、どうして流星剣の使い方を知ってたんですか?」
そう訊ねたら、「知らなかった」と言われた。口から出まかせだったんだって。シャナム自身は流星剣なんて使えないって。
それならどうしてわたしに使えたんだろう? やっぱり、シャナムが言った出まかせが偶然にも当たっていたってことなのかな?
で、二人目の仲間がサラ。不思議な少女だ。ふいに森のなかにどこからともなく現われたんだもの。
暗黒の森には、その位置に立つと遠く離れた場所に瞬間的に移動してしまうワープポイントとかいう地点がいくつかあって、サラもそれで瞬間移動してきたんだけど、知らずにワープポイントに乗ってしまったってわけではなさそうだった。
だって、それなら驚くはずでしょ? サラは全然驚いていなかった。この森のことを知り尽くしているみたいだった。
それに、リーフさまのすぐそばに現われて、リーフさまの声に呼ばれたって言ってた。そのとき、リーフさまはべつに何もしゃべっていなかったのに。
でも、彼女がほんとうのことを言っているのはわかった。そう感じられたのだ。それから、彼女が闇を知っていて、しかもそれに捕われていないってことも。わたしは闇を知っているからそれがわかったのだ。
どう見たってサラはわたしより年下だ。たぶん、二つか三つぐらいは離れていると思う。そんな小さな少女が闇を知っていて、それと戦ったのだろうか?
それに、どうもサラはセイラムの知り合いらしい。セイラムとサラがひそひそ話をしているとき、セイラムが「サラさま」と呼び、サラがまるで命令するような口調で話しているのが耳に入ったのだ。
「知り合いなの?」って聞いたら、サラは「知らないわよ、こんな人」と即答し、セイラムはためらってから「いいえ」と答えた。
うそだというのはなんとなく気がついたが、それ以上追求しなかった。隠しておきたいような事情があるのかもしれないし。
それにサラは信用してもいいように思う。彼女はリーフさまの声が好きだと言った。だから助けてあげたいと思ったとも。それは本気だと感じられたのだ。
セイラムが暗黒教団から逃れてきたってことは、サラもそうなのかもしれない。いつかほんとうのことを話したくなったら話してくれるだろう。
で、もうひとり仲間になったのはミランダさま。アルスターの王女さまだけど、この寺院に捕らえられていたのだという。
幽閉されていた部屋から助けだしたとたん、ミランダさまはリーフさまをなじりはじめた。
アルスターの王さまはリーフさまを助けたために殺され、アルスターはグランベル王国に占領された。そのうえミランダさまはもう何年もこんなところに閉じこめられていたのだから、リーフさまを恨むのは無理もないかもしれないんだけど……。
リーフさまだってご両親を殺され、母国を占領されたのだ。アルスターの悲運がリーフさまの落ち度というのならともかく、そうじゃないのに、あんな言い方をしたら、リーフさまがおかわいそうだ。
そう思いながらふたりの会話を聞いていたんだけど、なんだかミランダさまの話し方って、だれかに似ているような……。
でれに似ているんだろう……と思って気がついた。タニアがオーシンに話しかけるときとちょっと似ている!
え? まさか……と思いながら見ていると、リーフさまはミランダさまに「レンスター奪回後にアルスターを救出する」と約束し、ミランダさまはリーフさまにすがって泣きじゃくりだした。
やっぱり、ミランダさまはリーフさまを嫌っているんじゃない。会ったとたんになじり出したのは、たぶん、ほっとしたからだ。
ミランダさまって、はじめの印象よりいい人みたいだけど……。好感が持てるんだけど……。
でも、ちょっとまずいわ。ナンナさまの気持ちを考えると。ナンナさまのほうをちらっと見ると、複雑そうな表情をしていたし。