ミディアの日記−ナバール

ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
これは6ページ目。騎士見習いのミディアは、王妃とニーナ姫の護衛をしています。

トップページ テレビゲーム館 「FEのキャラの日記」目次 前のページ 次のページ

 2004年3月14日UP


  アカネイア暦596年10月2日  2004年1月10日UP

 きょう、非番だったのでノルダの町に遊びにいって、警備隊の詰め所に立ち寄った。わたしは警備隊のみんなが大好きだ。それに、アストリアが警備隊に配属されたと聞いたから、激励を兼ねてちょっと覗いてみようと、差し入れを持っていったのだ。
 警備隊では、なんだかもめていた。
「お嬢ちゃん、帰んな」などと、みんながヤジを飛ばしている。兵士を募集していたところ、女性が応募してきたらしい。
 背が高くて、きれいな顔立ちの人で、まだ若い。はっきりした年はわからないけれど、まずまちがいなくまだ十代だと思う。ジョルジュと同じぐらいの年じゃないかな。十五か十六あたり?
 「お嬢ちゃん」なんて呼ばれているのを聞かなければ、女性とは気がつかなかっただろう。男の服装をしているためばかりではなく、視線がとても鋭い。みんなの態度に腹を立てていたせいかもしれないけれど。
 隊長がわたしに気づいて「ミディアさま」と呼びかけたとき、その人もふきげんそうな表情でこちらをふり向いたのだけど、まるで剣先を突きつけられているような感じがした。
「警備隊は飾りじゃない。強いやつでなければつとまらん」
「腕を試してもみずに、強くないとなぜ決めつける」
 わりと低い声だった。
 わたしは彼女に共感を覚えた。わたしも「女なのに騎士になりたいなんて」とよくいわれたから、彼女の悔しさがわかる。
「試すまでもない。その細い体や腕を見れば、うちの仕事に耐えられんのはわかる」
「細ければ弱いと思っているのなら、おまえはバカだ」
 隊長がムッとした顔になったので、見かねて思わず口をはさんだ。
「ウォーレン隊長、試すぐらい試してもいいんじゃないかしら? そんなに時間をとることではないのだし、腕試しをせずに追い返すのは公平ではないわ」
 わたしには警備隊のことに口出しをする権限なんてないのだけど、彼女の気持ちを考えると、黙っていられなくなったのだ。
「ミデイアさまがそうおっしゃるなら」
 隊長がしぶしぶそう言い、相手として、わたしの知らないトニーという若い剣士を指名した。警備隊は人数が多いし、人がときどき入れ替わるから、わたしも全員知っているわけじゃないけど、古参で腕の立つ人はだいたい知っている。ってことは、入隊して日の浅い人か、印象に残るほど強くはない人ということになる。
 対戦すると、ずいぶんあっさりと決着がついた。練習用の木剣で対戦したのだけど、ろくに剣を合わせてもいないうちに、トニーは剣を叩き落とされた。
 隊長は驚いた顔をし、次はアストリアと対戦させた。アストリアはトニーよりはましだったが、それでも勝負は早かった。
 隊長の顔を見て、採用する気になったらしいとわかったが、隊長はさらに副隊長と対戦させた。副隊長は警備隊一の腕前といわれている。ノルダの闘技場の剣闘士でも、副隊長より強い人は数えるほどしかいないだろう。
 副隊長との対戦は、たぶん、もう採用するかどうかを決めるための試合ではなかったと思う。彼女の腕前をはっきり知るための試合だ。
 ふたりの試合は、じつにいい闘いだった。みんな興奮して見守っていた。しかも、接戦のすえに勝ったのは彼女だった。
「採用だ」
 隊長が宣言し、副隊長が彼女に手を差し出した。握手しようとしたのだが、彼女はとまどっているみたいだった。握手をしたことがあまりないのかもしれない。
 みんな歓声を上げて彼女を歓迎している。こういうところがみんなのいいところだ。アカネイア騎士団の人たちも、このノルダの警備隊ぐらいさっぱりしていればいいのに。
 採用が決まって、はじめて彼女の名前を知った。ナバールというんだそうだ。まるで男性の名前みたいだ。ひょっとして本名じゃないのかな?


  アカネイア暦596年10月7日   2004年3月14日UP

 非番がくるのがこんなに待ち遠しかったことはない。次の非番もノルダにいこうって決めてたから。
 このあいだは、せっかく気の合いそうな人がノルダの警備隊に入ったのに、あんまり話をする時間がなかった。ナバールは入隊手続きやなんかをしなければならなかったし、あんまりじゃましちゃ悪いし。
 もちろん、今日だって仕事のじゃまをしちゃ悪いんだけど、ちょっと話したり、昼食をいっしょに摂るぐらいはいいだろうと思ったんだ。
 わたしが訪ねると、ナバールは困惑しているみたいだった。
「迷惑だった?」
「いや。あんたには借りがあるから」
 その言い方はちょっと悲しい。借りがあるなんて思われたくないし、ナバールが借りのためにわたしの話相手をするのかと思うと、ちょっといやだ。
 そう思ったのが顔に出たのだろうか。
「何か気にさわるような言い方をしたか?」
「わたしはあなたに貸しがあるとは思っていない。だから、あなたにも、『借りがある』なんて思って欲しくない」
 ナバールはとまどっているようだった。
「借りは返さないとすっきりしない。……それに、借りをつくったままにしておくと、あとになって不快な見返りを要求するやつもいるしな」
「不快な要求?」
「飯と酒をおごってくれて、あとで子供を誘拐するのを手伝えと言ったやつがいたな」
 なに、それ? とんでもない悪党じゃないの。
「ほかにも、奴隷商人に売り飛ばそうとしたやつとか、体をなでまわそうとしたやつとか……。借りなんてつくらないにこしたことはない」
 ナバールはずいぶんいろんな目に遭ったみたいだ。やっぱり、女の人が傭兵をするのってたいへんなんだな。用心深くなるのも無理はないけど……。そういう輩といっしょにされたくない。
「わたしはあなたに何もおごった覚えはないわ。実力を確かめたわけじゃないのに、先入観で実力がないと決めつけるのは理不尽だと思ったからよ。わたし自身がそれでずっといやな思いをしてきたから……。ナバールのこと、他人ごとと思えなかったの」
「あんたもなのか?」
 ナバールの口調が、親しみを帯びたように感じられた。
「そうよ。自分とよく似た思いをしている人に出会ったのって初めてだから、うれしかったの」
 意外にも、ナバールはムッとした顔をした。
「傷口をなめあうようなのは、嫌いだ」  
「なんで傷口なのよ? わたしにもあなたにも弱みなんてないんだから、傷口なんて思う必要ないでしょ?」
 ナバールはちょっと驚いたような顔をしてこちらを見つめ、うなずいた。
「それもそうだ」
「でしょ?」
「だが……。あんたが先入観でバカにされやすいのは、その容姿のせいだけじゃないと思う。言葉遣いも大きいんじゃないか?」
 そんな指摘をされたのは初めてなので、ちょっとびっくりした。
「言葉遣い?」
「女言葉を話すやつはバカにされやすい」
 ナバールがずっと男のような言葉で話してたのは、バカにされないためだったのか? 女っぽい言葉遣いをするとバカにされるなんて、今まで考えたこともなかった。
 でも、言われてみればそうかもしれない。騎士になった以上、騎士らしい言葉遣いをしなければ。
「教えてくれてありがとう。今度から言葉遣いに気をつけよう」
 そう言うと、ナバールがかすかにほほえんだ。
「そうだ。それでいい」
 なんだかうれしくなった。ナバールがずっと無愛想な表情をしていたからかな? 他人の微笑を見てこんなにうれしくなったのは初めてだ。
 それで、改めて、貸し借り抜きでわたしと話すのがいやじゃないのか、ナバールに訊ねた。
「あんたと話すのはいやじゃない。おれとよく似たことでいやな思いをしているやつとこんなに話すのは、初めてだ」
 どうやら、ナバールも、わたしのことを同類と認めてくれたようだ。
 同性で同類の友だちができたのは初めてだから、とてもうれしい。


上へ