「ウサギのほうが好き」と、あなたは答えました。
「そうか。では、ついてきなされ」
占いじいさんにいわれ、占い屋を出て、じいさんについていくと、町はずれにある一軒の家の前にきました。宿屋の看板がかかっています。
「あの寓話のウサギに似た男を紹介しよう。速く突っ走るのが好きで、だれよりも速く突っ走ったが、意外にどんぐさいやつでな。出し抜かれて、せっかく手に入れたレンスターをすぐに奪われてしまいおった」
(それは、もしや……)
そう思いながらついていくと、はたして、案内された部屋にはトラキア国王トラバント陛下がいらっしゃいます。
「だれよりも速いお方。機先を制してレンスターを手に入れたが、アルヴィス皇帝に出し抜かれて、どんぐさくもあっさり奪われてしまわれた」
トラバント陛下はいやそうな顔をなさいました。
「なんの用だ?」
「陛下は五年前に奥方を亡くされましたな。で、この娘さんを後妻にどうかと思いましてな」「ふーん」と、トラバント陛下はあなたをごらんになりました。心なしか、かすかに顔を赤らめ、照れておられるようです。
「そうだな。再婚というのも悪くはない。しかし、娘、そなたは若いが、わたしはふたりの子持ちだぞ。子どもたちはむずかしい年頃のうえ、娘のほうはちとわけありでな。それに、トラキアは現在グランベルにおびやかされ、安泰とはいえぬ。そのような国の王妃でもよいか」
「はい」と答える
辞退する