暗い近未来人の日記−ゴールデンウィーク |
日記形式の近未来小説です。主人公は社会人一年生。
あくまでフィクションですから誤解のないように。
なお、ここに書かれた内容は、実在の政府や団体や個人とはいっさい関係ありません。
2012年3月4日UP |
2093年5月17日
今日からゴールデンウィークだ。正確には、関東地区のゴールデンウィークだ。
わたしが高校一年の年までは、ゴールデンウィークは全国一斉で、基本的には四月二十九日から五月五日までだった。基本的にというのは、たとえば四月二十九日が月曜日というふうに、前後に土日がくればその土日もゴールデンウィークのうちに数えられたし、五月五日が日曜日なら六日も祝日になった。
それに、正式な祝日は四月二十九日と五月三日から五日までなので、飛び石連休にしかならない会社もあった。学校は一週間通して休みだったけどね。
そういうふうになったのは小学生のころ。たしか小学二年からだ。それ以前は、いまと同じように地域ごとに休みが違っていた。でも、わたしが赤ちゃんだったころは全国一斉だったという。
わたしが生まれるよりだいぶん前には、四月下旬から五月末までのあいだで、企業によってばらばらに休みをとっていたという時期もあったらしい。
大型連休の日程がこんなにころころ変わるのは、それぞれ一長一短だからだ。
もとは全国一斉だったんだけど、観光地やレジャーランドなどは大混雑だし、列車や飛行機の座席が取りにくいなどという問題があったので、数十年前、地域によって日程を変えるという方法が試みられた。
だが、そうすると今度は、会社の場合なら本社と支社で休みがずれるとか、郷里から離れたところに住んでいる人や単身赴任の人の場合なら、郷里と休みの日程が違うので同窓会に出席できないとか、家族と休みの日程が違うなどといった不便が生じた。
それで全国一斉に戻すと、やっぱり混雑するよりは以前のほうがいいという意見が出てくる。
その繰り返しで、何年かおきにころころ変わるみたいだ。だいたい選挙を機会に変わっているらしい。ゴールデンウィークの日程に不満な層の票を集めるために、公約で変更を謳い上げるからだろうな。
そろそろまた全国一斉のほうがいいという意見が強くなってきているみたいだし、今年は総選挙があるから、来年からまた変わるかもね。
2093年5月18日
久しぶりに一ノ瀬さんに会った。
話していて、「温かい」と感じた。
今まで、人間関係に温度差って意識したことはなかったけど、今は感じる。
会社での人間関係、とりわけ榊さんとの関わりがいかにきつかったか、よくわかった。
学生の頃は、だれだったか識者が、「本気のつき合いを避けて、ぬるま湯のようなつき合いを好む人が増えているのは問題だ」なんて書いているのを読んで、もっともだと思ったこともあったけど、いまはちょっと違う。そういう識者って、こういう温度差を感じたことがないんじゃないかと思う。
いや、もちろん、そういう文脈で「ぬるま湯のような人間関係」っていうのは、ネット上のつき合いとか、広く浅く本音を出さないグループ付き合いみたいなのを指しているんだろうとは思うけど。本当の意味での温かい関係のことじゃないってわかってはいるけど。
でも、今は、「ぬるま湯のような」という表現を悪い意味で使う気はしないな。油断するとどんな悪口を言いふらされるかわからない緊張した人間関係と、相手の善意や好意を感じながらつきあえる人間関係って、皮膚がひりつくほど冷たい真冬の風にさらされているときと、適温のお風呂につかっているときぐらいの温度差があるもの。
そもそも、わたし、広く浅いグループ付き合いを、べつにぬるま湯のようで心地好いとは思わないし。そういうのって、どちらかというと、会社の付き合いに似ているような気もするし。
まあ、でも、どういうグループかによっても違うから、一概には言えないか。
大学のゼミとかサークルの仲間たちとのつき合いは楽しかったし、温かかったものね。うかつなことを言うと揚げ足をとられるとか、隙を見せれば悪口の種にされるとか、そういう心配なしに、リラックスして自然体でつき合えた。
小学校から高校まではそうはいかなかったな。気の合う友だちはいつも何人かはいたけど、クラス全体となるとね。
でも、いまの会社のつき合いほどじゃなかったな。集団いじめが発生していた中一のクラスは別だけど。
やっぱり子供よりおとなのほうが裏表が激しくて、したたかだからかな。
まあ、榊さんのキャラが大きいという気はするけど。彼女のようなタイプの人がいない職場なら、こんなに人間関係がきつくなくて、もっと楽しく働けるのかなあ。
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