リーズ王女の日記・その1

立川が書いたファンタジー小説「聖玉の王」シリーズの世界が舞台の連載小説です。
小説本編よりだいぶん前の話なので、本編を読んでなくてもわかります。
ふつうの日記と違って、上から下へとつづいています。
シリーズの世界設定を知りたい方はこちら  「聖玉の王」シリーズの設定

トップページ

オリジナル小説館 次のページ 3ページ目

 2006年5月5日UP


  328年ゆきどけの月3日

 きょうはわたしの七つのたんじょうび。おいわいに、おとうさまはすてきなドレス、おかあさまは絵本をくださった。
 絵本は、人さらいにさらわれたおひめさまが、いろいろひどいめにあってくろうするけど、王子さまと 「こい」ってのをして、むすばれてしあわせになる話。
 おとなになったら「こい」ってのをするんだって。で、しあわせになるんだって。
 うばやがそうおしえてくれた。


  328年ミウむぎの月17日

 大おじさまが病気でなくなった。
 大おじさまは、おとうさまのおじさまで、おとうさまにとってはおんじんなんだって。
 おとうさまのおとうさま、つまりわたしのおじいさまは、おとうさまのまえに王さまをしていたんだけど、わたしが生まれるまえになくなった。で、そのとき、おじいさまの弟たちが、はんらんってのをおこしたんだって。
 でも、おじいさまの弟たちのなかで、大おじさまひとりだけが、おとうさまのみかたをしたんだそうだ。
 おとうさまは、大おじさまにとてもかんしゃしてらした。だから、大おじさまがなくなって、とてもかなしんでいらっしゃる。
 わたしもかなしい。大おじさまはやさしいかただったもの。


  328年夏至の月21日

 大おじさまの子どものラーブが、おしろにきて、いっしょにすむんだって。使いの人がむかえにいってるって。
 ラーブは、2年ほどまえ、おしろにきて、しばらくいたことがある。そのときいっしょに遊んだっけ。
 でも、顔とか、あんまりよくおぼえていない。大おじさまやエイリークとよくにた赤毛だったってのはおぼえてるけど。それに、わたしと同じ年だってことも。
「ラーブは、あなたのこんやくしゃですよ。だから、いっしょに住むことになったの」
 おかあさまがそうおっしゃったので、「こんやくしゃって、なに?」ってたずねた。
 そしたら、「たすけあっていっしょにくらす人のことですよ」って。
「それって、家族みたいなもの?」
 そう聞いたら、おかあさまはうなずいた。
「ええ、そうよ。ラーブはわたしたちの家族になるのです」
 ふーん。ラーブが家族になるのかあ。


  328年太陽の月12日

 テイトがラーブのじゅうしゃとして、おしろにやってくることになった。
 じゅうしゃってのは、けらいなんだけど、子供のうちは遊び相手なんだって。
 テイトはうばやのむすこで、うんと小さなときにはおにいさんみたいなものだった。うばやについてよくおしろにやってきて遊んでくれたのを覚えてる。
 もう長いこと会ってなかったけど、テイトがまたおしろにやってくるのはうれしいな。


  328年太陽の月18日

 ラーブがとうちゃくした。なんだかものすごくしょんぼりしていて、話しかけても、 「うん」とか「ああ」とかうるさそうにへんじするだけ。
 2年ぶりに会ったんだから、もうちょっとよろこんでくれてもいいのに。
 そりゃあ、大おじさまはラーブのおとうさまなのだから、なくなってかなしいのはわかるけど。
 それはわかるから、わたしだって、やさしくするつもりでいたのよ。
 なのに、うるさそうにされたら、どうしていいのかわからないじゃないの。
 それにしても、どうしてラーブだけなんだろう? 
 なんとなく、わたし、ラーブのおかあさまのフレイアさまももいっしょにくると思ってたんだけど。
 おかあさまにそういったら、「ラーブのおかあさまはフレイアさまではありませんよ」って。
 大おじさまのおくさまはフレイアさまだから、てっきりフレイアさまがラーブのおかあさまだと思ってたんだけど、ちがったの?
 なんだかよくわからないんだけど、大おじさまにはおくさまが四人もいて、正式なおくさまはフレイアさまだったけど、二年前にりこんとかいうのをなさって、ラーブのおかあさまが正式なおくさまになったんだって。
「じゃあ、フレイアさまはエイリークのおかあさまなの?」
 そう聞いたら、それもちがうといわれた。
 大おじさまには、エイリークとバウズとラーブと、男の子ばかり子供が三人いらしたけど、三人ともおかあさまがちがうんだって。
 で、三人ともフレイアさまの子供じゃないんだって。
 ややこしくってよくわからない。わたしのおとうさまには、おかあさまのほかにおくさまはいないし。
 で、まあ、それはともかく、ラーブのおかあさまは大おじさまのおしろにのこっていて、ラーブだけがわたしたちのおしろにきて家族になるんだって。
「ラーブは王さまになるべんきょうをしなくちゃいけないの。それなのに、自分のおとうさまにもういろいろ教えてもらえなくなったから、わたしたちのところにくることになったのです」
 おかあさまはそうおっしゃった。ラーブがしょんぼりしているのは、おとうさまをなくしたのもあるけど、おかあさまとわかれてくらさなければならないのがつらいのだとも。
「だから、ラーブにやさしくするのよ」
 おかあさまはそうおっしゃったんだけど……。
 話しかけたらうるさそうにするんだもの。どうすればいいのかわからない。
 テイトも、どうしていいかわからないみたいだった。ラーブにずいぶんこんきよく話しかけてたんだけど。


  328年豆の月1日

 きょうは、ラーブとテイトといっしょに、サーニアさまのところにいった。
 サーニアさまは、ほんとうのしごとはうらないしだけど、ラーブの先生もやっていて、ラーブがおしろにやってきたのにあわせ、シグトゥーナのちかくにひっこしてきたのだという。
 で、わたしたちはこんどから、月に二回、サーニアさまのうちにいって、じゅぎょうを受けることになったのだ。
 いままでのわたしの先生は、みんなおしろにきておしえてくれたから、おしろの外にじゅぎょうを受けにいくなんてはじめてだ。それも、シグトゥーナの都のなかじゃなくて、都の外に出ていくなんて。
 ずいぶんかわった先生だな。
 でもうれしい。ちょっとわくわくした。
 サーニアさまのうちは、かいどうを少しはずれた森のなかにあった。
 そこまでは、おとうさまのじゅうしゃのハロルドが馬車でおくってくれた。
 サーニアさまはかなりお年をめしたおばあさんだけど、こしとかまがっていなくて、歩き方もしゃんとしている。
 いっしょに住んでいるのは、キトって名の使用人だけらしい。
 サーニアさまに会うと、ラーブは、おしろにきてからはじめて、ちょっとうれしそうな顔をした。
 ちょっとおもしろくない。知り合いに会ってうれしいのはわかるけど、まるでわたしたちがいじめてたみたいじゃないの。
 で、会ってあいさつをすると、サーニアさまは、すいしょう玉みたいなのをラーブにもたせた。すると、ハロルドが大きくうなずいた。
 なんだか、とってもへん。なにかのぎしきみたい。
 で、そのあと、ハロルドは、ゆうがたむかえにくるといいのこして、かえっていった。
 ラーブとふたりだけで、知らない人のところにのこされるなんてはじめてだから、ちょっと不安になったけど、じゅぎょうはおもしろかった。
 家のなかでべんきょうするのじゃなくて、サーニアさまは、わたしたちを森につれていってくれたのだ。
 小鳥やうさぎなんかがサーニアさまにはよくなついていて、わたしたちにもさわらせてくれた。
 小鳥が手にとまったり、うさぎのあたまをなでたりするなんて、はじめてだ。とてもたのしかった。


  328年雨の月12日

 エイリークがあいさつにやってきた。
 あ、いけない。こんどから「エイリークきょう」っていわなくちゃ。大おじさまのあとをついで五つの村をおさめることになったし、一年のはんぶんは都に住んで、おしろにつとめることになったし。「エイリークきょうとよびなさい」って、おかあさまにいわれたんだった。
 ラーブはあいかわらずめそめそしているから、ひさしぶりにおにいさんに会ったら、あまえたりなきだしたりするんじゃないかと思ってたけど、そんなことはなかった。
 ふたりとも、まるであまりしたしくない人に会ったときみたいによそよそしいあいさつをしただけ。
 なんだかへんな感じだった。
 で、おかあさまにそう言ったら、「エイリークきょうはラーブのことをとても心配していますよ」って。
「あの人はひかえめなので、あまり思っていることをおもてに出さないのです」
 おかあさまはそうおっしゃったけど、よくわからない。
 おとうさまにこの話をすると、「それでいいのだ」とおっしゃった。
「兄があまやかしては、なんのためにおさないうちから王宮にひきとったのか、わからなくなってしまう。エイリークはそれをよくわかっているのだ」って。
 そういうものなのかな?


上へ  次のページへ