ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
これは13ページ目ですが、連作なので、ここからお読みになっても話はわかると思います。
騎士見習いのミディアは、王妃とニーナ姫の護衛をしています。
ナバールはノルダの警備隊に勤務しています。
2007年2月18日UP
アカネイア暦597年8月23日
きょう、ニーナさまと王宮の庭にいたとき、上空にペガサスと飛竜の姿が見えた。
ペガサスナイトがいるのはタリスとマケドニアで、アカネイアでは両国の大使館に何人か配属されている。でも、ドラゴンナイトがいるのはマケドニア本国だけ。マケドニア大使館にもドラゴンナイトはいない。
つまり、上空の一団はマケドニアから来たってことになる。ふつうの使者なら、ペガサスナイトが一騎か二騎のはず。ドラゴンナイト一騎とペガサスナイト数騎が何の前触れもなしにやってくるなんて、ただごとじゃない!
そう思って、ニーナさまにはお部屋に帰っていただき、一団が着陸したと思われる厩舎のほうに急いだ。
すると、ドラゴンとペガサスを厩番の者たちに預けて、王宮に足早に入っていく女騎士たちの一団が目に入った。
後ろ姿しか見えなかったけど、そのうちのひとりは、マケドニアのミネルバ王女殿下だった。
ミネルバさまなら、あやしい者じゃない。そもそも、おとうさまとアカネイアの騎士たちが出迎えていたのだから、あやしい者のはずはない。
でも、王女殿下みずから前触れなく訪問されるなんて、前代未聞だ。
ふしぎでしょうがないんだけど、わたしたちには、何があったのか教えてもらえなかった。
ミネルバさまたちがお帰りになられたあと、おとうさまを見かけたけれど、厳しい顔をしてらして、とてもたずねられるような雰囲気じゃなかった。それでなくても、王宮内で公私混同はできないから、たずねるわけにはいかない。
わたしだけじゃなく、みんな気にしているみたいだ。いったい何があったんだろう?
アカネイア暦597年8月24日
きのうのミネルバ殿下のご用が何だったのかわかった。わたしたち王族の護衛を受け持っている者たちが、騎士も騎士見習いも広間に集められ、おとうさまが説明したのだ。
「メディウスが復活しかけている」と。
すぐにはピンとこなかった。ほかの人も同じだと思う。だれも口をはさまなかったので、おとうさまは説明をつづけた。
それによると、マケドニアの辺境のドルーアで、しばらく前から不穏な動きがあったのだが、それがメディウス復活に伴うものだとわかった。その中心人物は、数年前から消息不明となっていたガーネフ司祭なのだという。
メディウスの名前は子供のころから何度も聞かされた。それが恐ろしい暗黒竜で、百年ほど前にこのアカネイア王国を滅ぼしたことがあったということも。王家でただひとり生き残った王女アルテミスが、当時はアカネイアの辺境だったアリティアに逃れ、彼女に恋したアリティアの勇者アンリが神剣ファルシオンでメディウスを斃したという伝説も。
それがただの伝説ではなく、史実なのだということは知っている。ほんの数代前のできごとなのだから、それが史実なのだということを示す記録はある。
でも、それが現実のできごとだという実感はなかった。だって、史実ったって、伝えられていることのすべてがほんとうのことだとはかぎらないんだし……。
あまりにも神話じみた伝説だったから、脚色がかなり入っているだろうと思っていた。とくに伝説の最後の部分。メディウスがアンリに斃されたとき、「いつかよみがえって復讐してやる」と言い残したという部分は。
だって、その部分って、「いい子にしていないと、よみがえったメディウスに食べられちゃいますよ〜」というような脅し文句とともに語られることが多いんだもの。子供のしつけに利用するためのでっちあげだと思ってた。
それがほんとうだったっていうの? あ、いや、もちろん、メディウスが親の言いつけをきかない子供を狙って襲う……なんていうのは、でっちあげなんだけど。
メディウスが復讐のためによみがえるなんて、ほんとだったの?
驚いたけれど、考えてみれば、竜人族がほんとうにいて、アカネイアに来ていたぐらいだものね。あのチキって女の子。いま思い出しても、現実とは思えないようなできごとだった。ああいうことが現実に起こるのなら、メディウスが復活するのだって、ありうることかもしれない。