ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
これは全体の14ページ目、「諸王会議」の2ページ目です。
騎士見習いのミディアは、王妃とニーナ姫の護衛をしています。
ナバールはノルダの警備隊に勤務しています。
2007年9月30日UP
アカネイア暦597年9月2日
きょう、騎士見習いの何人かといっしょに、おとうさまに呼び出された。おとうさまの執務室に入ると、ナバールとアストリアまで呼び出されていたのでちょっと驚いた。
「おまえたちを呼んだのはほかでもない。特別任務だ」
そういわれたので、緊張した。
「メディウスの復活にあたって、各国の国王陛下が集まって対策を練ることにした。その際、王子殿下や王女殿下を伴ってみえる方もおられる。その警護をおまえたちにやってもらいたいのだ」
おとうさまは、来訪の決まっている方々の名をあげて、担当を割り振っていった。
わたしはタリスのシーダ王女殿下、ナバールはアリティアの王太子殿下、アストリアはグルニアの王太子殿下の担当だ。
三人ともまだ子供なので、お見えになると聞いて驚いた。そのほか、グラの王太子殿下とシーマ王女殿下も、やっぱり子供だけどお見えになる。
グルニアのカミュ殿下やマケドニアのミネルバ殿下、オレルアンのハーディン殿下が会議に出席なさるのはわかるけど、この非常時に幼い方々を会議に連れてくるのは合点がいかない。
「こんなときにお子さま連れでみえるのですか?」
思わずたずねたら、おとうさまにじろりとにらまれた。
「このようなときだからこそ、次の時代を担う方々に世界の重大事をお見せしようというのだ」
そう言われて、ちょっと恥ずかしくなった。たしかにそれは必要なことかもしれない。
「本来なら国賓の護衛は聖騎士の役目なのだが、遊び相手も兼ねることを考えれば、多少なりとも年が近いほうがいいだろう。そう思って、おまえたちを護衛にしたのだ」
「ちょっと待て」と、ナバールが口をはさんだ。
「それは子守りじゃないのか?」
「そんななまやさしいものではない」
おとうさまが厳しい表情で答えた。
「少なくとも、おまえが担当するマルス王子殿下の護衛はな。マルス殿下は神剣ファルシオンの後継者だから、暗殺者に狙われる可能性は高いのだ。おそらく、最も狙われる危険が高いのはアリティア国王陛下。その次に危険なのはマルス殿下だろう」
「たかが八つのガキを、暗殺者が本気で狙うってのか?」
「いまは八歳の子どもにすぎなくとも、いずれ初陣をはたせる年となる。だから、メディウスもガーネフも、マルス殿下を恐れているだろう?」
「ほんとかあ?」
ナバールが疑わしげに顔をしかめた。
「アンリの子孫ってだけで、そんな子どもをそれほど恐がってるんなら、メデイウスもたいしたことないんじゃないのか?」
「アンリの子孫というだけではない! マルス殿下はすでにファルシオンに選ばれておるのだ。八歳の誕生日にな」
それは初耳だ。
そう言ったら、おとうさまは苦笑した。
「そんなはずはあるまい。マルス殿下の八歳の誕生祝いが立太子式を兼ねていたのは知っておろう?」
「はい」
「その立太子式の最も重要な行事は、王太子になるべき王子が神剣ファルシオンを鞘から抜く行事だ。マルス殿下はそれをやりとげられた」
「それって……形式的なものだったのではないのですか?」
「いいや。ファルシオンは使い手を選ぶ剣だからな。アリティアの王子だからといって、かならずしも抜くことができるとはかぎらん。ファルシオンに選ばれた者だけが抜けるのだ」
「それなら」と、ナバールが口をはさんだ。心なしか、目が輝いているように感じられた。
「その王子は子供でも強いのだな?」
「さあな」
おとうさまが苦笑した。
「強いもなにも、まだ八歳の子供だからな。だが、成長すれば、かならずや強くなるだろう。われらはそう信じている」
「ふうん」
「何を考えている?」
「いや、おれとやりあえるようになるのは十年後ぐらいかな……と思っただけだ」
「やりあってどうする? マルス殿下は剣闘士でも傭兵でもない。ファルシオンの後継者が戦うべき相手は、メディウスとそれに組する者たちだけだ。……が、まあ、殿下の護衛がいかに重要でやりがいがあるかがわかっただろう?」
「暗殺者に狙われる確率が高いというなら、護衛してもかまわん。おもしろそうだ」
「不謹慎な……」と、アストリアがつぶやいたが、おとうさまは微笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべただけで、ナバールの暴言を咎めなかった。
「おもしろがられても困るが、やる気じゅうぶんなのは頼もしい。だが、油断はするなよ」
ナバールは軽く鼻で笑った。おとうさまの注意を気に留めているのかどうか、よくわからない。
ともあれ、わたしが護衛するシーダ王女殿下は、母君がアリティア王家出身で、マルス殿下とはご親戚。それに、父王どうしは大のご親友だと聞いた。
タリスの国王陛下がまだタリスを平定してまもないころ、アリティアを訪問したときに、アリティアの国王陛下のいとこにあたられる若く美しい姫君と恋をし、結ばれたという話は有名だ。それがきっかけで、両国の国王陛下が堅い友情で結ばれるようになったという話も。
両王家はそういう間柄だから、シーダ殿下とマルス殿下も面識があり、仲がよいとか。たぶん、わが国滞在中も、いっしょに過ごされるだろうという。
ということは、わたしはたぶん、ナバールといっしょに仕事をすることになるわけね。
それに、あの元剣闘士のオグマが、タリスの国王陛下一行の護衛としてついてきて、国王陛下が会議に出席しているあいだは、シーダ殿下の護衛をつとめるとか。
それなら、オグマともいっしょに仕事ができるのね。
それは楽しみだ。もちろん、マルス殿下が刺客に狙われる危険が高いってことは、いっしょにいるシーダ姫も危険なわけだから、責任重大だけど。わたしも刺客と戦うことになる可能性が高いわけだけど。
でも、それだけに、じつはわたしもちょっとわくわくしている。こんな不謹慎なこと、おとうさまに言ったら叱られそうだけど。