ミディアの日記−諸王会議・その3

ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
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 2009年1月11日UP


  アカネイア暦597年9月7日

 各国の国王陛下方に先駆けて、きょう、ミネルバ殿下がお着きになった。ミネルバ殿下の護衛には、わたしと同じく騎士見習いのエルザが選ばれていた。
 それで、エルザは、早々の任務に張り切っていたのだが、まもなく、彼女とミネルバ殿下のいい争う声が聞こえた。
「お待ちください、殿下!」
「護衛は無用。このふたりで充分だ」
 エルザが困っているようなので、声のするほうにいってみた。
 みると、ミネルバ殿下には、まだかなり若い女騎士ふたりがつき従っている。ひとりはわたしやエルザと同じぐらいで、もうひとりは明らかに年下。どこかで見たような気がする。ひょっとして、御前試合のとき、優勝しそうだったやたらに強い女の子を迎えにきたふたりでは……。
 一度だけ遠目に見た人の顔なんて覚えていないんだけど、年齢とか、まだ若いのに王女殿下の護衛に抜擢されて信頼されているようすから、なんとなくそう思った。
 それで、思わず声をかけた。
「もしや、そちらのおふたりは、御前試合のときの……」
 四人がふり向いたとたん、「しまった」と思った。
 あのふたりは、規律違反した妹を連れ戻しにきたんだった。ってことは、あれは王女殿下に秘密だったんじゃないか? だとすれば、このふたりがあのときの姉妹にしても、そうじゃないにしても、こんなことを言ったらまずい。
 そう気がついてあせった。こういうところ、わたしって、考えなしなんだなあ。
「聞かなかったことにしよう」
 ミネルバ殿下が苦笑してそうおっしゃり、お付きのふたりは無言で頭を下げた。
 それで、殿下はご存じなのだとわかった。殿下は、なにもかもご存じのうえで、部下の規律違反を見逃すことにされたのだ。
 こういうあたり、ミネルバ殿下はおとなだなあと思う。お年はたしか、わたしと一つしか違わなかったと思うのだけど。やはり、一国の王女殿下として、幼いころから重い責任を背負ってらっしゃるからだろうか。
 マケドニアは気候風土が厳しく、とくに辺境では、野生の飛竜が民家を襲うこともあるという。それだけに、貧困層の多さが悩みの種で、盗賊も多く、治安が悪い。そのうえ、かつてのドルーア帝国の都だった地域が領土内に含まれているのだ。
 そういう国の王女だけに、ミネルバ殿下は幼いころから武芸に励み、いまでは白騎士団と呼ばれるペガサスナイトの騎士団を率いておられる。自身は、ペガサスナイトとしての修練を積んだのち、飛竜を乗りこなすようになり、最近ではドラゴンナイトの称号を得られた。
 その経歴や評判から、しっかりした方というイメージがあったが、いまじかに接して、そのイメージがいっそう強まった。
 やはり、豊かで恵まれたわがアカネイアの姫君方とは違う。
 いや、比べるのはよそう。アカネイアの姫君方は、腹違いのごきょうだいが多いことだし、それはそれで人間関係のご苦労とかおありに違いないのだから。
 ともあれ、ミネルバ殿下はそういう武勇にすぐれたお方だけに、わが国が護衛をつけるのをよしと思われなかったのだろう。
 まあ、たしかに、殿下ご自身も護衛のふたりも、エルザ……というより、わたしも含めたわが騎士団の騎士見習い一同のだれよりも強いんじゃないかという気もするし。
 護衛を拒まれるのも無理はないかもしれない。でも、だからといって拒まれては、エルザの立つ瀬がない。
 困っていたとき、ナバールがやってきた。別にわたしたちを見かけて近づいてきたわけではなく、たまたま通りかかっただけなのだろう。
 アリティアの国王陛下一行はまだお着きではないから、いまのところ、城内でのナバールの仕事はないのだが、父上の命令でノルダ警備の任を離れ、城内をぶらついている。マルスさまの到着前に城内のようすをもっと知っておいたほうがいいという父上の配慮だ。
 ナバールは立ち止まって、ミネルバ殿下の飛竜に目を向けた。どうやら、わたしたちの会話よりも、飛竜のほうに興味があるらしい。
「飛竜が珍しいか?」
 殿下がたずねると、ナバールはうなずいて、「まあな」と答えた。
 ナバールったら。相手は一国の王女殿下だというのに。
「以前に見たドラゴンとずいぶん違う」
 ナバールの言葉で、以前に出会ったドラゴンのことを思い出した。
 竜人族。人間の女の子に見えたのに、いきなりドラゴンに変身した。たしか、チキって名前だったっけ。
「以前に見たドラゴン? 飛竜以外のドラゴンなど、見る機会はないだろう?」
 ミネルバ殿下は首をかしげたが、それ以上ナバールの発言を追及する気はないようで、すぐに話題を変えた。
「おまえはこの城の警備兵なのか? アカネイア人ではないように見えるが?」
「臨時の仕事で城にきているだけだ」
「なるほど。会議のために警備を増やしたのだな。アカネイアといえば伝統にこだわる国ゆえ、国外の人間を重要な仕事に雇ったりはしないと聞いたが、思ったより柔軟なようだ」 殿下としては褒め言葉なのだろう。
 でも、この方がわが国に必ずしも好意だけをお持ちではないのは、なんとなくわかった。
 かといって悪感情や敵対心を抱いておられるというわけでもなさそうだ。ただ、けっこう批判的な視点をもっておられる。
 でも、それはしかたがない。わが国の人間であるこのわたしでさえ、批判的な目で見ずにはいられない問題点がたしかにあるのだから。
「なるほど」と、ミネルバ殿下は目を細めた。
「アカネイアが慣例を破って雇うだけあって、おまえは腕が立ちそうだな」
「あたりまえだ」
 無表情のまま、ナバールが答えた。
 わたしだったら、「腕が立ちそう」なんて言われたら有頂天になってしまうところだが、ナバールは、うれしそうにも得意そうにも見えない。彼にとって、自分が強いのはあたりまえの事実だし、「強い」と言われるのに慣れっこになっているから、べつに褒められたとは感じないのだろう。
 だが、殿下がナバールを高く評価してくださったのは、護衛の件を説得するチャンスだ。
 そう思ったので、そもそももめていた話を蒸し返してみた。
「アカネイアも変化しています、殿下」
 口にしてから自信がなくなった。たしかに父上は、因習に捕らわれずによりよく改善していこうという気風をお持ちだが、アカネイア全体としてはそうじゃない。相変わらず、実力よりは家柄という風潮が強い。
 いや、でも、たしかに変化している。女性のわたしたちが騎士見習いになれたのは、その大きな変化のひとつだ。
「アカネイアの騎士は、以前は男性に限られていましたが、いまは、わたしたち女性にも騎士への道が開けています。それも変化の一つです。アカネイア人ではないナバールがノルダの警備隊に入り、さらに、今回の会議でマルス王子殿下の護衛に抜擢されたのも」
「ほう」と、殿下は目を細めてナバールを見た。
「マルス殿はコーネリアス陛下につづくファルシオンの後継者。狙われる可能性が二番目に高い人間だ。その護衛とは、そなた、ずいぶん高く買われたようだな」
ナバールの表情が微妙に変化したように見えた。さすがに少しは気をよくしたのかもしれない。
「おもしろい。こうしよう。そなたがこの姉妹の攻撃を防げたら、そちらのエルザ殿をわたしの護衛として認めてもよいぞ」
 ミネルバ殿下の提案に少し面食らった。護衛を申し出ているのはエルザなのに、エルザ本人ではなく、ナバールの腕を試そうなんて。
 つまり、それだけ、ナバールの腕前に興味をお持ちなのだ。護衛を断る口実にしたいのなら、この挑戦をエルザに向けるだろうから。
「いいだろう」と、ナバールはあっさりうなずき、左右の手に剣を持った。
 ナバールはいつも剣を二本持ち歩いている。一対一の試合なら一本の剣で戦うが、必要とあれば左右両手を使えるのだ。
 護衛ふたりも剣を抜き、ナバールの左右にさっと分かれて身構えた。
 てっきり場所を変えて練習用の剣で試合をするとばかり思っていたので、すっかりあせった。
「お待ちください。真剣で試合をするのですか」
あわてて止めると、ミネルバ殿下は薄い笑みを浮かべた。
「案ずるな。この者たちは寸止めぐらいできる」
「ふん」と、ナバールも鼻で笑った。
「寸止めなど必要ない。おれがこの剣で止めればいいのだろう?」
 それ以上何も言えずにいるうちに試合が始まった。
 姉妹がものすごい勢いで剣を繰り出し、わたしは思わず手で目を覆ってしまった。だって、姉妹が寸止めするのも、ナバールが剣で受け止めるのも、とうてい不可能と思える勢いだったのだ。
 でも、鋭い金属音がして、おそるおそる目を開けると、ナバールがみごとに剣を受け止めていた。その驚いたような表情と、両腕をぎりぎりまで曲げてふんばっているその姿勢から、かなり危うかったのだとわかった。
「それまで」
 声をかけたミネルバ殿下も、さっと剣を引いた姉妹も、驚いた顔をしている。
「この者たちのダブル・アタックが受け止められたところは初めて見たぞ」
 殿下の言葉に、姉妹もうなずいた。
「やはり、ダブル・アタックでは無敵とはいかないことがよくわかりました」
「エストも加えて、トライアングル・アタックを完成させなければ」
 話の脈絡からすると、エストって、たぶん、この姉妹の妹の名前よね。御前試合でむちゃくちゃ強かったあの少女。トライアングル・アタック?
「トライアングルってことは、三人で攻撃するのですか?」
 たずねると、ミネルバさまは微笑まれた。
「どのようなものかは、完成した暁を楽しみにしてもらおう。もっとも、エストはまだ子供ゆえ、完成はかなり先になるだろうがな」
「おもしろい」
 ナバールも珍しく、挑戦的な笑みを浮かべた。
「完成の暁には俺が破ってやる」
「楽しみにしてますわ」と、姉妹のひとりが言った。
「ただし、戦場での対戦はごめんこうむりたいですね」と、姉妹のもうひとり。
「試合で対戦したいものです」
 わたしだって、そう思う。この人たちと敵どうしになるなんてまっぴらだ。いい人たちだから戦いたくないってのはもちろんだけど、それだけじゃなく、恐い。
 いまのダブル・アタックってのは、たぶん、ふたりぴったり同時に攻撃した。それが三人になったら、両手に剣を持っていても受け止められない。どんな剣の達人だって、腕は二本しかないのだから。
 しかも、三人にまわりを取り囲まれて同時に攻撃されたら、かわすのも難しいんじゃないだろうか?
 いくらナバールだって、勝てないような気がする。もちろん、三対一の戦いで敗れても、ナバールがこの姉妹より弱いってことにはならないけど。
 でも、戦場なら命を落とす。
 わたしはそう思ったけど、ナバールは無言のまま不敵な笑みを浮かべただけ。どう思ったかはわからない。
 ともかく、ミネルバさまは約束を守って、エルザの護衛を受け入れてくださった。
 それはほっとしたけど、エルザは複雑な顔をしていた。そりゃ、まあ、ミネルバ殿下の護衛がどんなに強いか目の当たりに見て、自分の護衛がほとんど形式的なものと思い知らされたわけだもの。無理もないと思う。


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