ミディアの日記−諸王会議・その4

ファイアーエムブレム「紋章の謎」のミディアが少女時代に日記を書いていたら……
これは全体の16ページ目、「諸王会議」の4ページ目です。

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 2010年5月16日UP


  アカネイア暦597年9月7日

 きょう、アリティアの国王陛下一行が到着した。マルス王太子殿下もごいっしょだ。
 陛下は何度かアカネイアを訪れたことがおありで、遠くからお顔を拝見したこともあるけれど、マルス殿下は初めて。だから、どんなお子かと、興味津々で出迎えた。
 神剣の後継者だというので、なんとなく、偉丈夫の父君に似た気の強そうな子を想像していたんだけど、予想とちょっと違った。
 べつに、気が弱いってわけじゃないと思う。利発だし、たぶん、芯は強いんじゃないかと思う。
 でも、漠然と予想していたような負けん気の強い子じゃなくて、人と競争するより、相手に勝ちを譲ってしまうようなところがおありだ。
 そう思ったのは、廊下でカール殿下とすれ違ったときだ。
 カール殿下は、わがアカネイアの王族とはいえ、前国王陛下の妾腹の王子の御子だから、いずれ成人すれば臣籍に下られる身。マルス殿下より身分は格下だ。
 そういう身分の上下はさておいても、他国の王子とすれ違えば、あいさつぐらいするのが礼儀だろう。
 それなのに、カール殿下ってば、まともにあいさつもせず、自分が通れるように道を譲れと言ったのだ。マルス殿下のほうは、おずおずとだけどちゃんとあいさつしたのに。
 マルス殿下が怒り出すんじゃないかと、ハラハラした。だって、殿下は、アリティアでは王太子として皆にかしづかれてお暮らしなのだから、こんな失礼な扱いには慣れていないはずだもの。
 でも、マルス殿下は怒り出さなかった。ただ、とまどった顔をされて、脇によけただけだった。
 べつに、アカネイアが宗主国なので屈辱に堪えたというわけではないと思う。もっと成長してからならともかく、この年齢でそんなにうまく内心の怒りを隠したりはできないだろう。
 そのときマルス殿下のお供をしていたのは、ジェイガン卿と若い騎士、騎士見習いらしい少年ふたり、それに殿下と同年齢ぐらいの男の子。ジェイガン卿は表情を変えなかったけど、あとの三人は明らかに腹を立てていた。
 冷静だったジェイガン卿だって、内心ではご不快だっただろう。
 いや、ひょっとすると、不快とか立腹というより、その一件でカール殿下の人となりを評価なさったかもしれない。
 むだに他人を見下して傲慢な態度をとったら、自分が低く見られてしまう。カール殿下はどうしてそれがおわかりにならないんだろう?
 って、まあ、子どもだからしかたがないんだけど。おとなになるにつれておわかりになるなら、それでもいいんだけど。
 でも、おとなになっても変わらないような気がする。だって、カール殿下は、こういうところは、わがアカネイアの王太子殿下に似てらっしゃるのだもの。
 はっ、わたし、いま、王太子殿下を批判しちゃった?
 うーん、まずいなあ。こんなこと思ったって人に知られないようにしなくちゃ。わたしひとりの問題じゃなくて、おとうさままで困った立場に立たされかねないもの。
 ま、それはともかく。
 マルス殿下は、うちの王太子殿下やカール殿下とはタイプが違う。
 おとなしくて気が弱いのか、やさしいのか、それとも器が大きいのか。
 まだ幼い子供だし、親しく接したわけでもないので何ともいえないんだけど……。
 なんとなく、気が弱いわけではなさそうな気がする。気が弱い子供なら、もっとおどおどしたり、びくびく緊張してると思うんだけど、そんなふうには見えなかったし。


  アカネイア暦597年9月10日

 夕方、ナバールと少しだけ話す時間があった。
 ナバールは、きょうはそこそこ長い時間、マルス殿下のお相手をしていたはず。彼の目に王子がどう映ったのか興味があったので、訊ねてみた。
 すると、「けっこうおもしろいやつだ」という答えが返ってきた。
 王宮の侍女たちや騎士見習いたちからは、「かわいらしい」「おとなしい」「やさしい」といった声が出ていたが、「おもしろい」というのは初めて聞く感想だ。
 一国の王太子について言うには不遜な言いぐさだが、ナバールとしては褒め言葉だと思う。
 もしも殿下が気弱な子供なら、こんな言い方はしない。ナバールは殿下を高く評価したのだ。会うまえには子供のお守りなんてと嫌がっていたのに、「おもしろい」と感じるほどに。
 どうしてそう思ったのか、もっとゆっくり聞く時間がなかったのは残念だ。
 ともあれ、きのう、ふと感じたように、マルス殿下は幼いなりに大物なのかもしれない。


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