小説のワンフレーズ(その1)

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当サークルで発行した同人誌5冊から、わりと気にいっているフレーズで、
ネタばれにならなそうなのをピックアップしてみました。

「いけにえにされかけた若者の物語」  「リャーンの祭り」

「太陽神の娘」  「エジプト女王の壷」  「魔族狩りの日」


  「いけにえにされかけた若者の物語」

「そう言わずにおいたまま、あなたに立ち去ると決断してほしかったのです。だれもいけにえとして引き渡したりしないと、あなたに言ってほしかったのです。なぜだという、あなたの問いに答えるなら……」
 シャジルは、怒っているとも悲しんでいるとも見える瞳で、まっすぐにリゲムを見つめて言った。
「わたしも、あなたに家畜同然に思われている奴隷のひとりだからです」
 奴隷娘のシャジルが奴隷商人である主人公リゲムに言ったセリフ。対立しながらも憎みきれない、好意もあるけどぶつからずにはいられないふたりです。

 そのようにして、目だけを出したリゲムは、知らない者には妖しい魅力をたたえた美女と見え、彼が男だと知っているカルロスをも、ときとして惑わせた。
 女装のリゲムは書いていて楽しかったです。なぜ女装しているかはヒ・ミ・ツ。

 リゲムはとくに冷酷な主人というわけではなかったが、主人と呼ばれる立場の多くの例にもれず、人に仕える立場の者たちに対して無神経で、相手にも自分と同じく意思や感情があるのだという認識が、欠け落ちていたのである。
 こういう人はけっこういそうな気がします。

  この小説の冒頭部分をお読みになりたい方は下記からどうぞ。
   「いけにえにされかけた若者の物語」冒頭部


  「リャーンの祭」

(嫌いな人と仲よくしなくちゃいけなくて、好きな人と仲よくしてはいけないなんて、おかしいじゃないの)
 主人公のリーガが子供のころに抱いた疑問です。

「恋物語のヒロインより、冒険物語のヒロインのほうがいいわね。そんなふうに強くなりたかったわ」
 子供の日のリーガに義母のひとり(六夫六婦制社会なので)が言ったセリフ。これを言った女性は恋物語のヒロインのような人。

 他人ごとだからこそ言える無責任で独善的な批判。ふしぎなことに彼らはみな、自分たちのことを、異質な文化も許容できる寛容で知的な人間だと思っている。じつのところ、他人の身に降りかかることだからこそ、どんなことでも許容できるのだが……。
 恵まれた境遇にいて、「あなたは被害者意識が強いのよ」といった独善的な説教をするクラスメートに、リーガが感じた感想。

「そうだ。女の値打ちは顔ではないぞ」ふいに家長が口をはさんだ。
「女の価値は、子を何人産めるかで決まるのだ。四人とも、いい腰つきをしているではないか」
 名前も出てこないチョイ役のひとりが口走ったセリフ。「こういうおやぢっていそうだよな」と思いながら書いたら、友だちが「いやだ、こんなおやぢ」と言って爆笑してました。

「トカニアの外が理想郷だと思っているわけじゃない。でも、わたしは外に出る。わたしが自分の人生を生きられる場所は、外の世界にあるからよ」
 リーガが自分の決意を語ったセリフです。

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   「リャーンの祭」冒頭部


  「太陽神の娘」

「戦はいつか人の手を離れ、恐ろしい神戦(かみいくさ)となり、人を滅ぼすことになりましょう」
 主人公ハトシェプストが予知夢から得た予言です。これが彼女の統治方針を左右することになります。

 ハトシェプストは、政治権力の場から遠ざかり、ただの平凡な女としての幸福を求めるような娘ではなかった。予知夢を見る力によって、これまで幾度となく父王にさまざまな助言をしてきた王女にとっては、政治の場から離れた自分の姿など思いもよらぬこと。彼女にとっては、統治し、国の運命を左右するのが、自分のもっとも自然な姿なのである。
 主人公はこういう人です。

 センムトにも見抜けなかったことだが、トトメスの他人に対する無関心さは、本人も自覚せぬ孤独からくるものだった。
 彼のまわりにいる人間は、両親を別にすれば、王子に対する忠誠を義務づけられていたり、あるいは、王子に取り入ろうとする者たちばかりであり、トトメスはそれを直感的に見抜いていた。センムトの超常的な読心力とはまた違うが、トトメスは、人の打算や媚びを見抜くという点にかけては、たいへん勘のよい子供だったのである。
 のちのトトメス三世はこういう子供です。

 男とさして違わぬ長身のハトシェプストに、男装はふしぎなほど似合っていた。胸のふくらみがなければ、あるいは顔や体の輪郭が男にしては丸みを帯びすぎていなければ、女とはわからなかったやもしれぬ。
 いささか倒錯的なその姿は、女の衣装を身につけたときよりもかえってなまめかしく、かといって、宦官や男装の娼婦たちに見られるような野卑で病的な雰囲気は微塵もない。まさにハピ神を思わせる威厳と美しさを漂わせていた。
 男装の女王って、こんな感じかな〜〜と。

「けれども確信がなかったのです。そなたの思いが、男の女に対する恋情なのか、臣下の主君に対する敬愛の情なのか」
 ハトシェプストが側近のセンムトにいったセリフ。主従間の恋愛はこの点が難しそうな気がします。

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   「太陽神の娘」冒頭部


  「エジプト女王の壷」

 王女と彼女はつねにいっしょだった。
 いや、はたして彼女と言ってよいものか。
 王女は彼女の性別を知らない。たずねたこともない。性別があるのかどうかさえ知らない。
 冒頭のフレーズ。けっこう気に入ってます。

「悪かったわね。ケンカに念力を使わなくてもいいように、腕っぷしを鍛えてんじゃない。この努力を、先生たちは何でわかってくれないんだろ」
 念動力者のメグミのセリフ。

「すっごーい。そんなエリートなのに、なんで、先生、歴史なんか教えてんの?」
 メグミが思わず叫ぶと、カズトは、むっとしたように言い返した。
「いいじゃないか。おれは歴史のほうが好きなんだから」
 超能力のエリートだからといって、そっち方面の仕事をしたいとはかぎりません。

「そんなばかな。発掘現場か博物館にいた人間なら、あれが考古学的に貴重なものだとよくわかっているはずだ。それを盗む者などいるとは思えんが」
 考古学者カシマ教授のセリフ。こういう浮き世離れした学者って、危なっかしいけど、なんか好きだな。

「だって、この本、教科書なんかと違っておもしろいんだもん。年号なんか覚えなくてもいいしさ。考えてみれば、学校の勉強って、勉強がきらいになるような勉強ばかりしていたのね」
 メグミのセリフ。

「うそでしょ。悪の秘密結社より、ありそうもないわ」
「そう思うでしょ? でも、ほんとなのよね」
 アキが嘆息した。つられて、みんなもため息をつく。
「カズくん、これでも警察に言う? 悪の秘密結社よりありそうもないってよ」
 メグミたちの一行と、途中で出会った小さな女の子との会話の一部。

「事情聴取って……」と、シローがあきれながら口を開いた。
「おれたちの事情は、あんたら、みんな知ってんだろ?」
「調書がいるんだ。形式上の問題さ」
「……ひでえ話だよな」
「事情聴取をするのが?」
「違うよ。わかってんだろ」

 シローと刑事の会話。

  本の前半からとったフレーズです。後半からとると、ネタバレしそうなのでやめておきます。

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   「エジプト女王の壷」冒頭部


  「魔族狩りの日」

 そう。レイヴにとって、「安全な場所」とは、人に助けを求められる場所ではなく、だれにも見つからぬよう姿を隠していられる場所だった。彼にとって、自分以外の人間というのは、病気のときに助けを求められるような対象ではなかったのだ。
 この話の主人公で、本編『聖玉の王』の主要登場人物のひとりでもあるレイヴは、こういう人です。この話の時点では12歳。

「恐がってるんじゃないさ。男の子だからな。美人に抱きつかれて照れておるのさ」
 レイヴはまっ赤になった。
「……そういうんじゃない。子供扱いされるのがいやなだけだ」
 警戒心が強くても、やっぱり12歳の少年ですから。

「あいつらは同胞で、おまえは友だちだ。家族も同胞も自分で選ぶもんじゃないけど、友だちは自分で選ぶもんだ。以前にガンザがそう言ったことがあったけど、よくわかった。おまえは家族よりも……とはいえないけど、同胞よりだいじだ。家族と同じぐらいだいじだ」
 魔族の少年クペのセリフ。

「なるほど、強くなったら、いじめられなくなったのか」
「ああ。他人をいじめるのが好きなやつが、小さな子をいじめるのに、理由はなんでもいいんだと思う。自分より小さくて弱いというのが理由なんだ。たぶん」
 強いレイヴも、ごく幼いときには、年上の子供たちにいじめられた経験があります。それをふり返って言ったセリフ。

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   「魔族狩りの日」冒頭部


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